CoaCatさんの音子さんからいただいた、狐ルーク!
わわ、ありがとうございます。しかも子猫が二匹ついている…!
先日のうちのチャットで熱く狐耳について語ったんですが、そのうち描きますとおっしゃっていたので楽しみにしていたら、うちにもお嫁にいただきました。本当にありがとうございます。なので、お礼といってはあれですが小話をつけてみました。
音子さんの描くルークは本当に色っぽいので大好きです。
ありがとうございました。



「こんっっっの、屑がぁ──っ!」

森の中に響き渡った怒声に、枝々を遊ぶように飛び交っていた小鳥たちが、驚いたように一斉に飛び立った。
そしてその怒声をぶつけられた相手──猫科の灰色耳を持つルークは、ジンジンと響く鼓膜を守るように三角耳を伏せた。

「ンだよアッシュ、突然でかい声出すなよっ!」
「だったらそうさせないようにしろっ! この屑猫がっ!」
「なにいっ? 屑猫ってなんだよ、屑猫って!」
「てめえが屑だから屑って言ったんだ! このバカ猫っ!」
「な〜んだとぅっ!」

 ルークは威嚇するように自分をなじる相手を睨みつけると、長い灰色の尻尾を膨らませた。
そんなルークを座った目で睨みつけているのも、ルークと同じくらいの年の少年だ。人間で言えば6歳前後くらいの、子供の姿。だがその少年の頭と腰にも、ルークと同じような大きな三角形の耳と長い尻尾がある。
それがつけ耳などではないことは、ぎゃんぎゃんと言い争っている彼らの耳や尻尾が感情豊かに動いていることから見ても、すぐにわかる。
それだけではない。ルークとそのもう一人の少年の顔は、いま全く同じような表情を浮かべているせいもあるのだろうが、どこからどこまでもそっくりだった。
背丈もほぼ同じくらい。違うところと言えば、髪の色合いと長さだけ。ルークの髪は、背中まで綺麗に流れる長さの少年よりも短く、色も鮮やかな緋色をしている少年よりも若干褪せたような色をしている。
それは彼らの頭にある耳の色にも言えていて、少年の耳は黒蜜のように艶のある黒い耳だったが、ルークの耳はそれよりも薄い灰色をしていた。
はじめは口だけだった少年達の争いは、だんだんエスカレートするにつれてつかみ合いになる。そしてそれがさらにエスカレートして、すわ殴り合いかというところになって、不意にその二人の襟首を捕まえて持ち上げた者があった。

「ルーク、アッシュ! なにやってんだおまえらっ!」

猫の子を掴み上げるように(半分は猫なのかもしれないが)持ち上げられて、ルークとアッシュは同じように目を丸くして自分たちを捕らえた相手を見つめた。
二人を捕まえたのは、ルークとよく似た髪の色と成長したらきっとこうなるだろうと思わせるような容姿を持った、一人の青年だった。
彼の頭にも、ルーク達と同じような三角形の耳がついている。だがその耳にはふわふわとやわらかそうな赤茶色の毛が生えていて、腰にある尻尾もふさふさと豊かな赤茶色の長い毛の生えた狐のそれに似た尻尾だった。
青年は、ルーク達と同じ色をした翡翠の瞳で軽く二人を睨みつけた。しかし二人はその視線を受けて大人しくなるどころか、同時にふて腐れたような顔になった。

「だって! アッシュが急に怒り出すからっ!」
「フン、てめえがバカなのが悪い」
「なにを〜っ! バカって言うな!」
「バカをバカって言ってなにが悪い」
「だ〜っっ! いいかげんにしろ、お前らっ!」

持ち上げられたまま今度は足で蹴りあおうとする二人を一喝すると、彼は呆れたような顔をしながら二人のあいだに自分の顔をいれるようにしてそれぞれを睨みつけた。

「おとなしくしろっ、て言ってんのがわかんねーのかよ。あんまりうるせえと、奥の遺跡に放り出すぞ」

その一言に、ぴたりとルークの動きがとまる。そして止まったと思ったら、今度は怯えたようにぴるぴると震えだした。

「ルー、ルークが怯えている」

先程までそのルークとつかみ合いの喧嘩をしていたはずのアッシュが、責めるような目でルーと呼んだ青年の顔を軽く睨みつける。それにルーはやれやれと小さく肩をすくめると、ぴるぴると震えているルークの体を片腕で抱き上げた。

「……んな怯えンなよ。いい子にしてりゃ、そんなことしねえよ。あーもう、泣くなっ!」

しがみついてくる小さな体に困ったような声をあげるルーに、アッシュが自分も抱き上げろとばかりに目をむける。渋々同じように抱き上げてやると、アッシュは涙目になっているルークの頭を軽く叩いてやってから、むにっと軽く頬を摘んでひっぱった。
突然頬を引っ張られてきょとんと目を丸くしたルークは、しかしすぐに苦笑するように自分を見ているアッシュにへろっと笑い返した。ついさっきまで泣いていたくせに、とルーは微妙な目で二人を見下ろしていたが、諦めたようにため息をつくと二人を一緒に地面に下ろした。

「もう喧嘩すんなよ」
「おう!」
「努力する」

対照的な返事を返しながらも、二人は仲良く手を繋ぐと森の中に駆けていった。それをひらひらと面倒そうに手を振りながら見送ると、ルーはぱたりと尻尾を一振りしてから後ろをふり返った。

「……てめえ、なにさっきから隠れてんだ」
「なんだ、気がついていたのか」

後ろの木の陰から突然声が上がり、すっと音もなく黒い姿が現れる。
動きに連れて流れた長い髪の色は、緋色。長い毛足の黒い耳と、ふさふさの黒い尻尾。犬科の大型獣が持つそれを備えた青年は、腰に手を当ててふて腐れたような顔で自分を睨みつけるルーに、すっと唇の端だけを上げる笑みをむけた。

「ずいぶんと賑やかだったな」
「見てたんなら、とめろよ」
「あいつらの世話はおまえの管轄だろ」
「てめえが勝手に押しつけやがったくせに、なに言ってんだ!」
「俺が拾ったのはルークだけだ。もう一匹のチビは、てめえが拾ったんだろうが」
「チビじゃなくてアッシュ。ちゃんと名前を呼べよな」
「あんなガキはチビで十分だ」

微かに眉間に皺を寄せた青年に、ルーは気に入らないとばかりに鼻を鳴らした。そんなルーに青年はすっと眼を細めたが、すぐに勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「……まあ、アイツに俺の名前をつけたこと自体は気にいらねえが、その理由は認めてやっても良い」
「ばっ…! い、いいだろ別にっ! ……他に思いつかなかったんだからよ」

ピンと大きな尻尾が芯が入ったように立ち上がり、すぐに決まり悪げに下がるとはたはたと地面の上を掃くように動き回る。
そう、この青年の名前は黒い子猫と同じでアッシュという。もちろんこちらが本家なのだが、あの猫の兄弟を拾って名前をつけたとき、ルーはどうしてもアッシュにたった一つの名前しか思いつけなかったのだ。
なにしろアッシュはあんなに小さいくせに、この黒狼にそっくりな顔と髪の色をしていたのだ。耳と尻尾の色も、猫と狼という違いはあれども色といい艶といい本当にそっくりなのだ。
だけど本当は、もう一つ理由がある。
この森を治める王のような存在であるアッシュは、あちこちと飛び回っていることが多い。その彼のつがいの存在であるルーであっても、毎日顔をあわせることはまれなのだ。
もちろん彼らは、普通の狐や狼ではない。古くから森の中に住む、神と呼ばれる存在である。
普段は半獣の姿で過ごすことが多いが、もちろん人間に化けることも獣の姿になることも出来る。
ルーが育てている子猫たちも、拾ったときには普通の猫だったのだが、どこかでそんな神の血をひいていたのか、ルー達と一緒にいるようになってすぐに半獣の姿になることを覚えた。
そんな子猫たちを、ルーは彼と一緒にいられない寂しさを紛らわすために育てはじめたのだが、いまではアッシュとは違う意味で大事な存在となりつつある。
アッシュも、本来ならその強い独占欲ゆえに自分以外の者がルーに近寄ることにいい顔をしないのだが、あの子猫たちのことだけは特別に認めている。
自分によく似ているだけでなく、同じ名前を持っているアッシュに対しては少々思うところもあるが、ルークは別だ。なにしろルークは猫ながらもルーにそっくりで、二人で一緒にいると年の離れた兄弟か親子のようで、見ていて微笑ましいのだ。

「なに笑ってンだよ」

ふて腐れた声にふと我に返ると、拗ねたような目つきでルーがこちらを見ていた。それにニヤリと笑い返すと、アッシュはルーの鼻先に軽くキスをした。

「なっ……!」
「ガキどもはしばらく戻らねえんだろ?」
「へっ? あ、ああ…」

それが何だときょとんと目を丸くするルーに、アッシュは笑いながら手を伸ばすとすばやく自分の腕の中に抱き込んだ。

「あ、アッシュ…?」

抱き込んだ体を先程まで自分が潜んでいた大きな木に押しつけると、そのまま噛みつくようなキスをしながらルーの尻尾をまるで愛撫するようにそっと撫で上げた。

「……ン、んンっ!」

尻尾の付け根あたりをやわらかく揉まれて、びくりとルーの体が跳ねあがる。

「ガキどもが戻るまで、相手をしてもらおうか?」
「…ばっ! ……ん、んっ…ふうっ……」

ざらりと舌を擦りあわせるようなキスを施すだけで、気丈に睨みつけていた翡翠の瞳がわずかに甘い色をのせる。アッシュは唇を一度離すと、満足したように眼を細めてから本格的に唇をあわせてきた。
久しぶりに感じる甘いキスの感触と、自分を乱してゆく容赦のない指。
それに満たされるのを感じながら、ルーはそっとそれらをすべて受け入れるために目を閉じたのだった。



*(狐ルークの名前は狐だからルー。狐と言えば「るーるーるー」だから…。たまにならぶ安易な付け方ですみませんorz。)