ちょうちょ
ひらひら
ひらひら
鼻先をのんびりと掠めて飛んでゆく黒いものに、ルークはピンとミルク色の三角形の耳をたてた。
ふわふわと、空気の流の中を飛んでゆく黒い蝶。
緑と花があふれたこの庭には、さまざまな虫たちがやってくる。中でも多いのが、色とりどりの羽根を持つ蝶達だ。
ルークはひょいっとつま先立ちで伸び上がると、左手で蝶を掴もうと手を伸ばした。
「あっ!」
もう少しで届きそうというところで、ひらりと黒い蝶は身をかわすように逃げてしまう。
「う〜っ」
必死につま先立ちで掴もうと手を振るが、まるで意地悪でもしているかのようにルークの手から蝶は逃げてゆく。
「あっ! 待てぇっ!」
ひらりと羽根をはためかせて移動を開始した蝶を追いかけて、ルークもぱたぱたと小走りに走り出す。しかし目の前をひらひらと飛んでゆく蝶は掴めそうで掴めず、ルークは必死にその後を追いかけた。
ぱふん、と両手を合わせて捕まえようとしても、その動きを察知していたのかのように蝶はひらりと身をかわす。
最初はお遊び気分だったのに、いまではすっかり蝶を捕まえることに夢中になったルークは、まてぇっ!と必死に叫びながら芝生の上を駆けた。
中庭に面した回廊を通りかかったメイド達は、完全に蝶に遊ばれている末っ子子猫の姿に、あらあらと微笑みを浮かべる。そして、ちょうど自分の尻尾にとまった蝶を捕まえようとして、そのままくるんと一回転してからころりと背中から転がった姿を見かけた者達は、微笑みどころか噴き出すのをこらえるのに必死だった。
何度も指先から逃げてゆく蝶に、ルークはすでに意地になっていた。なんとしてもこの蝶を捕まえてやる、と心に決めながらぱたぱたと庭を駆けめぐる。
だが蝶を追いかけることに夢中で上ばかりを見て走っていたルークは、小さな茂みを飛び越えたところで、むぎゅっとなにか柔らかいものを踏みつけて芝生の上を転がった。
「…ってえっ! 何すんだっ、このバカっ!」
頭に葉っぱをつけて芝生の上から起き上がったのは、そこで気持ちよく昼寝をしていたルーシュだった。うーっと唸りながらお腹をさすっているところ見ると、どうやらルークが踏んづけたのはルーシュのお腹だったらしい。
だがルークはごめんなさいを言うよりもはやくキラキラと目を輝かせると、不機嫌そうに耳を寝かせているルーシュの腕をぐいぐいひっぱった。
「ルーシュ! ちょうちょっ!」
「ルーク、ごめんなさいは?」
「あうっ……、ごめんなさい」
へにょっと一瞬だけ白い耳がへたるが、すぐにまた期待するようなまなざしと共に耳が立ちあがる。
キラキラとしたルークの目と、その後ろをひらひらとノンキに飛んでゆく蝶を見て、ルーシュは一つため息をついてからニッと唇の端をあげた。
「んじゃま、俺さまがいっちょ手本を見せてやるかっ!」
「おうっ!」
白耳二人は単純に盛り上がりながら拳をあげると、今度は二匹そろって蝶を追いかけはじめた。
その後、なかなか捕まらない黒い蝶に業を煮やして飛び上がったルーシュが、ベンチで本を読んでいたアッシュを跳び蹴りしてしまって拳骨をくらい。二人の弟にせがまれてすばやく蝶を捕まえたアッシュは、アッシュの耳と同じ色ーと嬉しそうに蝶を掴むルークに、パンチをくらったような気分を味わうこととなる。
END(08/06/11)(初出08/04/18)
日記か移動の小話
ひらひら
鼻先をのんびりと掠めて飛んでゆく黒いものに、ルークはピンとミルク色の三角形の耳をたてた。
ふわふわと、空気の流の中を飛んでゆく黒い蝶。
緑と花があふれたこの庭には、さまざまな虫たちがやってくる。中でも多いのが、色とりどりの羽根を持つ蝶達だ。
ルークはひょいっとつま先立ちで伸び上がると、左手で蝶を掴もうと手を伸ばした。
「あっ!」
もう少しで届きそうというところで、ひらりと黒い蝶は身をかわすように逃げてしまう。
「う〜っ」
必死につま先立ちで掴もうと手を振るが、まるで意地悪でもしているかのようにルークの手から蝶は逃げてゆく。
「あっ! 待てぇっ!」
ひらりと羽根をはためかせて移動を開始した蝶を追いかけて、ルークもぱたぱたと小走りに走り出す。しかし目の前をひらひらと飛んでゆく蝶は掴めそうで掴めず、ルークは必死にその後を追いかけた。
ぱふん、と両手を合わせて捕まえようとしても、その動きを察知していたのかのように蝶はひらりと身をかわす。
最初はお遊び気分だったのに、いまではすっかり蝶を捕まえることに夢中になったルークは、まてぇっ!と必死に叫びながら芝生の上を駆けた。
中庭に面した回廊を通りかかったメイド達は、完全に蝶に遊ばれている末っ子子猫の姿に、あらあらと微笑みを浮かべる。そして、ちょうど自分の尻尾にとまった蝶を捕まえようとして、そのままくるんと一回転してからころりと背中から転がった姿を見かけた者達は、微笑みどころか噴き出すのをこらえるのに必死だった。
何度も指先から逃げてゆく蝶に、ルークはすでに意地になっていた。なんとしてもこの蝶を捕まえてやる、と心に決めながらぱたぱたと庭を駆けめぐる。
だが蝶を追いかけることに夢中で上ばかりを見て走っていたルークは、小さな茂みを飛び越えたところで、むぎゅっとなにか柔らかいものを踏みつけて芝生の上を転がった。
「…ってえっ! 何すんだっ、このバカっ!」
頭に葉っぱをつけて芝生の上から起き上がったのは、そこで気持ちよく昼寝をしていたルーシュだった。うーっと唸りながらお腹をさすっているところ見ると、どうやらルークが踏んづけたのはルーシュのお腹だったらしい。
だがルークはごめんなさいを言うよりもはやくキラキラと目を輝かせると、不機嫌そうに耳を寝かせているルーシュの腕をぐいぐいひっぱった。
「ルーシュ! ちょうちょっ!」
「ルーク、ごめんなさいは?」
「あうっ……、ごめんなさい」
へにょっと一瞬だけ白い耳がへたるが、すぐにまた期待するようなまなざしと共に耳が立ちあがる。
キラキラとしたルークの目と、その後ろをひらひらとノンキに飛んでゆく蝶を見て、ルーシュは一つため息をついてからニッと唇の端をあげた。
「んじゃま、俺さまがいっちょ手本を見せてやるかっ!」
「おうっ!」
白耳二人は単純に盛り上がりながら拳をあげると、今度は二匹そろって蝶を追いかけはじめた。
その後、なかなか捕まらない黒い蝶に業を煮やして飛び上がったルーシュが、ベンチで本を読んでいたアッシュを跳び蹴りしてしまって拳骨をくらい。二人の弟にせがまれてすばやく蝶を捕まえたアッシュは、アッシュの耳と同じ色ーと嬉しそうに蝶を掴むルークに、パンチをくらったような気分を味わうこととなる。
END(08/06/11)(初出08/04/18)
日記か移動の小話