年明け




「さっさとしろ、置いて行くぞ」

苛立ちを含んだ冷たいその声にルークは生返事を返すと、ようやくきちんと履けたスニーカーのつま先を軽くついて立ちあがった。

「うっせーな、靴くらいゆっくり履かせろよ」
「てめえがもたもたしているからだろ。いいから行くぞ」

すでにすっかり用意の整っていたアッシュはそっけなくそう言うと、玄関の扉を開いた。
途端に吹き込んできた冷たい夜風に、ルークは慌ててダウンコートの前を閉めた。ベージュ色のダウンコートも、さっき履くのに少し苦労していたスニーカーも、すべてクリスマスプレゼントにもらったばかりのものだ。
一方アッシュの方は黒いロングコートに、革靴。どちらもルークと同じで両親からのクリスマスプレゼントだ。

「何でアッシュはロングコートで、俺はダウンコートなんだよ」

アッシュに続いて外に出ると、ルークはもう何度目になるかわからない愚痴を口にした。それにアッシュはうんざりとしたような顔になると、隣にやってきたルークの頭を軽く小突いた。

「馬鹿かてめえは。自分でダウンコートが欲しいって駄々捏ねていたんだろうが」
「うー、そうなんだけどさ」

別にコートに不満があるわけではない。もともと欲しかったものだし、二人の息子に甘い両親が買ってくれただけあって、薄手なのにとても温かなこのコートは冬の間重宝するだろう。
ではなにがルークに文句を言わせているのかといえば、アッシュとお揃いではない、その一言に尽きるのだ。
もっとも、ルーク自身もちゃんと自覚はしているのだ。
双子で顔や姿形はそっくりなのに、アッシュとルークは持っている雰囲気がまったく違う。もっとも髪の長さも違うのだが、もし同じだけの長さがあったとしても、一言でも言葉を発せばすぐにその違いがわかるだろう。
誰に言われなくともわかっている。落ち着いた風格さえ感じさせるアッシュに比べて、ルークは年よりも子供っぽく見られることがある。
つまりプレゼントの違いは、二人の個性の違い。そうわかってはいるのだが、やはりこだわってしまう。

「背だって一緒なのに……」

実は、それだけがルークにとってたった一つの慰めだ。これで身長まで抜かれていたら、たぶん立ち直れなかっただろう。

「なにをごちゃごちゃ言っている」
「べっつに〜」

適当な返事を返すと睨まれたが、ルークはそれを無視した。
アッシュの方もそれ以上突っかかる気はなかったのか、何も言わずに時計に目を落とすとムッと眉を寄せた。

「少し急ぐぞ。時間までにつかねえ」
「どうせぴったりの時間になんか本殿にたどり着けねえんだから、ちょっとぐらい遅れても良いじゃねえか」
「そう言うわけにはいかねえ」

真面目な顔でそう呟いたアッシュに、ルークは爺臭いとか一瞬思ったが賢明にも口にはしなかった。



二人は今、家の近所にある神社へと向かっていた。
年越しソバもさっさと食べ、某国営放送の年越し番組の結果を見てから家を出たのだが、目的地の神社は距離にして徒歩10分ほどのところにある。
ただ問題なのはその神社がこの近隣ではそこそこ大きな神社なため、近年はそれなりに混んでいたりすることだ。
もちろんルークやアッシュにとっては子供の頃からの馴染みの場所であり、夏祭りも初詣も、ついでに七五三もそこで済ませている。
昔は家族そろって年が明けてから初詣にいったものだが、高校に入ってからは二人だけで大晦日の真夜中に行くようになり、二人での初詣もついに今年で3度目だ。
ルークも口では面倒だの寒いだのと文句を言っているが、本当はこうやってアッシュと二人だけで出かけるのは嬉しかったりする。特に普段と違う用事で出かけるとなると、なんとなく浮かれた気分になるのはしかたがないだろう。
神社に着くと、予想した通り境内は人であふれていた。
二人も仕方なく列の最後尾にならぶ。列は少しずつしか進まず、そうこうしているうちに誰かが小さく歓声を上げたのを合図に波のように拍手が広がる。

「……また今年も、時間内にはたどり着けずか」
「ま、いいじゃねえか。一応ちゃんと神社の中だし」

そう笑いながら言うと、アッシュは諦めたように小さく肩をすくめた。
だったらもっと早く家を出ればいいのにと、言ってはいけない。毎年母親は年越しソバを食べてからでないと、家を出してくれないのだ。
アッシュもルークも、体の弱い母親には弱い。年中行事を大事にする母親に逆らうようなことは、よほどのことがなければしたくないというのが、二人の一致した意見だ。

「あ、お参りの前だけど。あけましておめでとう!」
「ああ、あけましておめでとう」

二人は並んで顔を見合わすと、ニッと嬉しそうに笑った。

「帰りに甘酒もらってこうぜ」
「どうせ餅も食うんだろ」
「もちろん!」

神社からふるまわれるこれらも、ルークが毎年楽しみにしているものの一つだ。



今年もまた一年、この寒い夜からはじまる。
その一番はじめに一緒にいるのが互いだということが、とても嬉しい。
今年もいい年でありますように!




END
(08/02/21)




現代物双子パロ。気が向いたらぽつぽつ小ネタを書きたい。