背比べ(使用人金・緑+赤毛)
それは何気ない一言からはじまった。
「やった!俺の勝ちっ!」
バンザイ、と子供のように両手をあげて喜びをあらわにしたルークの頭に、アッシュは無言のまま拳をおろした。
「いってぇ──!なにすんだよ!」
「うるせぇっ!」
半分涙目になりながら睨みつけてくるルークに、アッシュはベヒモスさえ殺せそうな目つきで睨みつけてきた。
「暴力反対!」
「てめえがアホ面で喜ぶからだろう」
「うわ!八つ当たりかよ」
ぎゃあぎゃあとわめきあう赤毛二人に、少し離れたところで定規を持っていたガイは苦笑しながらも微笑ましくその様子を眺めていた。
「よかったな、ルーク」
「おう!」
「そこの親馬鹿!こいつをつけあがらせるなっ!」
「つけあがらせるなって言われてもねえ……」
ガイは小さく肩をすくめると、自分の方へ逃げてきた自分が育てたも同然のご主人様の頭を愛しげに撫でた。
ガイに撫でられて嬉しそうに笑うルークに、さらにアッシュの眉が不機嫌そうにつり上がる。ガイもそれをわかっていながらやるので、たいがい確信犯的なところがある。
もっとも、彼の場合は多少の愛の差はあれどもどちらの赤毛の青年も気に入っているので、そんなアッシュの反応もひそかに楽しんでいたりする。
世界救済などという大役を成し遂げて戻ってきた二人の青年は、いまではすっかり兄弟同然に一緒に暮らしている。
いや、兄弟同然ではなく、実際に彼らは兄弟としてこのファブレ家に迎え入れられていた。
そして、どんな心境の変化があったのかはわからないが、いまガイの目の前でこちらをにらみ付けている赤毛の兄ことアッシュは、こちらにもどってきてからというものの、すっかり兄馬鹿と化している。
もっとも、兄馬鹿というのも多少語弊があるだろう。
たしかにそういう感情もないわけではないのだろうが、アッシュのルークへの態度からはあきらかに独占欲の片鱗が覗いている。
つまりアッシュはルークに対して特別な感情を持っているわけなのだが、はたから見ればかなりあからさまな感情は肝心の相手にはまったく伝わっていなかったりする。
「ちょっと、なに騒いでんのさ?」
面倒くさげな声とともに、ひょこりと部屋の中にもう一人はいってくる。
その態度はとても使用人とは思えないほど尊大で、だがそれが不思議と似合う少年。ルークは彼に気がつくとぱっと顔を輝かせて、てててと彼の方へ走っていった。
「シンク!俺、背が伸びたんだ!」
「へえ、そりゃよかったね。で、何ミリ伸びたの?」
子犬のようにまとわりついてくるルークを軽くあしらいながら、シンクは意地の悪い笑みを浮かべた。
「馬鹿にすんなよ!……7ミリだけど」
最後の方は決まり悪げに呟いたルークに、シンクは小さく鼻を鳴らした。
「はっ!やっぱりミリ単位じゃないか」
「う、うるせえ!それでも伸びたことにはかわりねえんだよ!」
必死に言いつのってくるルークに小さく肩をすくめながらも、シンクは楽しくてたまらないというように小さく唇のはしに笑みを浮かべた。
「でなっ、でなっ!アッシュよりも俺の方がちょっとだけ背が高くなったんだ!すげーだろ!」
そんなシンクの表情に機嫌を直したルークが嬉しそうにそう告げると、シンクはへえともう一度呟いてからアッシュの方へ視線を向けた。
その瞳には、楽しくてたまらないと書かれたような表情が浮かんでいる。
「よかったじゃない。でもそんなちまちまと成長しているようだと、そのうち僕が追い抜くよ」
「げっ!シャレにならないこと言うなよ……」
実際にここのところ成長著しい彼からそういわれると、本当にシャレにならない。しかし顔をしかめたルークのさらにその後ろで、アッシュが本気で嫌そうにこちらを睨みつけてきたのを、シンクは楽しげに見かえしていた。
平均よりもちょっと小柄な彼らの共通の悩みは、目下その身長にある。
人から見ればあまりに些細なことだが、本人達にとっては大問題らしい。ちなみに身長に関することでは、ガイは完全に蚊帳の外、もしくは嫌味を言われる対象となっている。
そのこともあって、普段ならある程度二人がヒートアップしてきたところで仲裁に入るはずの彼が、今日は少し離れたところで苦笑いしている。
「はっ、たった3ミリでそれだけ浮かれられるとは、めでてえ頭だな」
「うるせえ!たとえちょっとでも俺の方がでかいんだぜ。これが喜ばずにいられるかってーの」
そういって鼻先で笑うルークに、さらにアッシュの機嫌が降下する。
またもや低レベルな言い合いをはじめた赤毛二人を呆れたように見ながら、シンクはこちらにやってきたガイに小さく肩をすくめてみせた。
「そろそろお茶でも運んでこようと思ってたんだけど」
「まあ、当分無理だろうな」
「いっそのこと、抜きにしてやろうかな……」
「それは勘弁してやれよ。それに、ルークのリクエストでシャルロット作ったんだろ?」
それに返事はなかったけれど、もちろんそんなつもりなど最初からなかったことなど分かり切っている。
なんのかのいいながらも、シンクも自分やアッシュなみにルークに対して甘いのだから。
「だけど、さっきおまえが言っていたことが本当になるかもな。ここ最近、急に背が伸びただろ?」
「まあね」
まんざらでもない口ぶり。
それにガイは小さく笑いをかみ殺す。
今この三人の中で、ルークよりも背が高いのはガイだけだ。それを、後の二人がコンプレックスに思っていることには気がついている。
特に、アッシュは切実だろう。
好きな相手よりもすこしでも背が高くありたいのは、男として当然のことなのだから。
そして低レベルな赤毛二人の言い争いは、しばらくして、決して気の長くない疾風の二つ名を持つ使用人によって強制終了させられることとなる。
END(07/03/25)
このネタ、5月にやればタイムリーだったのに。
「やった!俺の勝ちっ!」
バンザイ、と子供のように両手をあげて喜びをあらわにしたルークの頭に、アッシュは無言のまま拳をおろした。
「いってぇ──!なにすんだよ!」
「うるせぇっ!」
半分涙目になりながら睨みつけてくるルークに、アッシュはベヒモスさえ殺せそうな目つきで睨みつけてきた。
「暴力反対!」
「てめえがアホ面で喜ぶからだろう」
「うわ!八つ当たりかよ」
ぎゃあぎゃあとわめきあう赤毛二人に、少し離れたところで定規を持っていたガイは苦笑しながらも微笑ましくその様子を眺めていた。
「よかったな、ルーク」
「おう!」
「そこの親馬鹿!こいつをつけあがらせるなっ!」
「つけあがらせるなって言われてもねえ……」
ガイは小さく肩をすくめると、自分の方へ逃げてきた自分が育てたも同然のご主人様の頭を愛しげに撫でた。
ガイに撫でられて嬉しそうに笑うルークに、さらにアッシュの眉が不機嫌そうにつり上がる。ガイもそれをわかっていながらやるので、たいがい確信犯的なところがある。
もっとも、彼の場合は多少の愛の差はあれどもどちらの赤毛の青年も気に入っているので、そんなアッシュの反応もひそかに楽しんでいたりする。
世界救済などという大役を成し遂げて戻ってきた二人の青年は、いまではすっかり兄弟同然に一緒に暮らしている。
いや、兄弟同然ではなく、実際に彼らは兄弟としてこのファブレ家に迎え入れられていた。
そして、どんな心境の変化があったのかはわからないが、いまガイの目の前でこちらをにらみ付けている赤毛の兄ことアッシュは、こちらにもどってきてからというものの、すっかり兄馬鹿と化している。
もっとも、兄馬鹿というのも多少語弊があるだろう。
たしかにそういう感情もないわけではないのだろうが、アッシュのルークへの態度からはあきらかに独占欲の片鱗が覗いている。
つまりアッシュはルークに対して特別な感情を持っているわけなのだが、はたから見ればかなりあからさまな感情は肝心の相手にはまったく伝わっていなかったりする。
「ちょっと、なに騒いでんのさ?」
面倒くさげな声とともに、ひょこりと部屋の中にもう一人はいってくる。
その態度はとても使用人とは思えないほど尊大で、だがそれが不思議と似合う少年。ルークは彼に気がつくとぱっと顔を輝かせて、てててと彼の方へ走っていった。
「シンク!俺、背が伸びたんだ!」
「へえ、そりゃよかったね。で、何ミリ伸びたの?」
子犬のようにまとわりついてくるルークを軽くあしらいながら、シンクは意地の悪い笑みを浮かべた。
「馬鹿にすんなよ!……7ミリだけど」
最後の方は決まり悪げに呟いたルークに、シンクは小さく鼻を鳴らした。
「はっ!やっぱりミリ単位じゃないか」
「う、うるせえ!それでも伸びたことにはかわりねえんだよ!」
必死に言いつのってくるルークに小さく肩をすくめながらも、シンクは楽しくてたまらないというように小さく唇のはしに笑みを浮かべた。
「でなっ、でなっ!アッシュよりも俺の方がちょっとだけ背が高くなったんだ!すげーだろ!」
そんなシンクの表情に機嫌を直したルークが嬉しそうにそう告げると、シンクはへえともう一度呟いてからアッシュの方へ視線を向けた。
その瞳には、楽しくてたまらないと書かれたような表情が浮かんでいる。
「よかったじゃない。でもそんなちまちまと成長しているようだと、そのうち僕が追い抜くよ」
「げっ!シャレにならないこと言うなよ……」
実際にここのところ成長著しい彼からそういわれると、本当にシャレにならない。しかし顔をしかめたルークのさらにその後ろで、アッシュが本気で嫌そうにこちらを睨みつけてきたのを、シンクは楽しげに見かえしていた。
平均よりもちょっと小柄な彼らの共通の悩みは、目下その身長にある。
人から見ればあまりに些細なことだが、本人達にとっては大問題らしい。ちなみに身長に関することでは、ガイは完全に蚊帳の外、もしくは嫌味を言われる対象となっている。
そのこともあって、普段ならある程度二人がヒートアップしてきたところで仲裁に入るはずの彼が、今日は少し離れたところで苦笑いしている。
「はっ、たった3ミリでそれだけ浮かれられるとは、めでてえ頭だな」
「うるせえ!たとえちょっとでも俺の方がでかいんだぜ。これが喜ばずにいられるかってーの」
そういって鼻先で笑うルークに、さらにアッシュの機嫌が降下する。
またもや低レベルな言い合いをはじめた赤毛二人を呆れたように見ながら、シンクはこちらにやってきたガイに小さく肩をすくめてみせた。
「そろそろお茶でも運んでこようと思ってたんだけど」
「まあ、当分無理だろうな」
「いっそのこと、抜きにしてやろうかな……」
「それは勘弁してやれよ。それに、ルークのリクエストでシャルロット作ったんだろ?」
それに返事はなかったけれど、もちろんそんなつもりなど最初からなかったことなど分かり切っている。
なんのかのいいながらも、シンクも自分やアッシュなみにルークに対して甘いのだから。
「だけど、さっきおまえが言っていたことが本当になるかもな。ここ最近、急に背が伸びただろ?」
「まあね」
まんざらでもない口ぶり。
それにガイは小さく笑いをかみ殺す。
今この三人の中で、ルークよりも背が高いのはガイだけだ。それを、後の二人がコンプレックスに思っていることには気がついている。
特に、アッシュは切実だろう。
好きな相手よりもすこしでも背が高くありたいのは、男として当然のことなのだから。
そして低レベルな赤毛二人の言い争いは、しばらくして、決して気の長くない疾風の二つ名を持つ使用人によって強制終了させられることとなる。
END(07/03/25)
このネタ、5月にやればタイムリーだったのに。