カノン・14




 何か、湿った温かなものが首筋に触れている。
 そのむずがゆいような感覚に首をゆるく振りかけて、ルークははっとしたように目を覚ました。
「……目が覚めたか」
 低い囁きが吐息と共に耳を掠め、ざわりと背筋を刺激する。その疼くような感覚にぎょっとしたように目を見開くと、すぐ目の前にアッシュの顔があった。
「アッ…シュ……?」
「ああ」
 ふと、目の前の顔が信じられないほど優しく笑った。一瞬夢の中にいるのではないかと思ったルークは、次の瞬間には意識を失う寸前までの記憶を取り戻して、慌てて飛び起きようとした。
「なっ……!」
 しかし起き上がろうとした体はそのままバランスを崩して横倒しになり、またたく間にアッシュに捕まってしまう。その時になってはじめて、ルークは自分もアッシュも素肌のままな事に気がついた。
「やっ…」
 慌てて相手を突き飛ばそうともがくが、腕が思うように動かない。それでもなんとか手を動かそうともがいて、ようやくルークは自分の腕が背中の方で一つに縛められていることに気がついた。
「な、んで…?」
「こうしておかねえと、テメエは逃げるだろう?逃がすつもりはねえが、念のために縛らせてもらった」
「冗談じゃねえ!放せっ!」
 自由にならない腕をそれでもなんとかしようともがいて逃げを打つためにずり上がろうとするが、簡単に引き戻されてしまう。
 それならと足で抵抗しようとするが、その前に膝を強く掴まれて大きく足を開かされた。
「アッシュ…っ!」
 悲鳴のような声で必死に名を呼ぶが、聞こえないふりをするつもりなのか、開いた足の間に体を入れられて閉じることもかなわなくなる。
「いやだっ!やめろっ!」
「煩せえっ!」
 強い声で怒鳴りつけられると同時に、足の間にあるものを強く握られる。直接的な刺激にびくりと大きく体を震わせると、ルークは大きく首を横に振った。
「…ねがいだからっ…っ!」
「逃がすつもりはねえって言っただろう」
 握ったものをゆるゆるとやわらかく扱きあげられて、ひくりと喉が鳴った。
 与えられる快楽に慣れた体は、わずかな刺激にもたやすく悦楽を拾い上げようとする。
「それに、おまえも知っているように、これが一番手っ取り早い方法だからな。だから、おまえがどんなに嫌がってもやめてやる気はねえ……」
 体重をかけるようにして押さえこまれた体は、すでに逃げ場を失っている。それでなくても、すでにルークの体はアッシュに触れられれば反応するように躾けられている。感じるように弄られれば、すぐにそこが反応して立ち上がり始めているのが自分でもわかった。
「んっ……」
 堅くなりはじめたそこを何度も扱きあげられ、時折指先で裏筋をたどられる。雫をこぼしはじめた先端にも指が這わされ、白く濁りはじめた蜜が先端から塗りつけられるようにして全体に広げられる。
 指が動くたびに淫猥な水音があがり、耳からも犯されてゆく。
「ふっ……あっ」
 気持ちが良かった。いつもと違って焦らされない分、純粋に快楽だけに思考が犯される。
 やわらかな袋をもむようにして刺激されると、さらに快楽が強まる。いつもなるべく辛さを感じないように、と無防備に悦楽を受け入れていたせいか、あっけないほど簡単に愛撫に陥落させられてゆく自分がひどく情けなかった。
「い…やだっ……。…放せっ、よ……」
「ふん、まだそんな口がきけるのか…?」
 すっ、とルークのものよりもわずかに色の濃い瞳が不機嫌そうに細められる。
「ひっ……!やああぁっ!」
 突然、下肢への刺激で反応しはじめていた胸の上の突起へと、アッシュが歯を立てた。痛みとそれだけではない疼くような痺れが、脳天から下肢までをするどく貫いた。
 まだ触れられてもいない後ろの蕾がひくりと蠢いたのを感じ、ルークはきつく目を閉じた。歯を立てられてまだ痺れの余韻が残っているそこを、アッシュの舌が無遠慮になめ回す。そのざらざらとした感触に、粟立つような刺激が音を立てて弄られている前へと集まってゆくのがわかる。
「…ンッ……やっぁ、あああぁッ!」
 きつく絞り上げるように扱かれ、先端の敏感な場所へと爪を立てられた痛みにルークのものが弾ける。下肢と下腹に熱く濡れた感触がひろがり、つられたように目尻に熱いものが流れるのを感じた。
 達した余韻に白くなりかけている思考が、何の遠慮もなく押し広げられた双丘のあいだの蕾に指がねじ込まれた衝撃に、一気に現実へと引き戻される。
「イやだっ……!やめろっ!」
 受け入れることに慣らされたそこは、何度か確かめるように浅いところを抉られただけで柔らかく指を飲みこんでゆく。内壁があさましく蠢き、意思とは裏腹に体だけが快楽を求めて動くのが、ルークの精神を打ちのめしていった。
 吐き出された自分の精液によって潤ったそこが、濡れた音を立てて収縮しはじめるのにそう時間はかからなかった。
 横倒しのまま大きく足を広げさせられ、恥ずかしい場所のすべてをさらけ出したまま嬲られる。それは今までにも何度も経験させられたことで、その時は羞恥ばかりが先立っていたが、その根底にはこの行為に対する諦念と使命感があっい、た。だが、今は違う。いまのルークは、心の底からこの行為を拒絶していた。
「……や、めろよっ。……おまえが、こんなことする必要…ないっ!」
 縛められた腕が、ぎちぎちと背中で鳴っている。暴れすぎたせいか、すでに腕の感覚が半分なかった。それでも、動かすたびに腕に走る痛みが少しでも快楽から意識をそらしてくれそうな気がして、ルークは縛められている部分がすれて痛みを訴えるのもかまわずに必死に抗った。
「てめえはそう思っても、俺はそうは思わねえ……」
「馬鹿じゃねえのか……?じぶん、自分の命を削ってまで、……ンで俺を助けようとするんだよッ!」
 自分のことを憎んでいるくせに、と喉元までこみ上げてきた言葉は、結局言葉にはならなかった。
 本当はもう、わかってしまっている。投げつけられたいくつもの酷い言葉の数々が、本当ではなかったことを。もしかしたら、中にはいくつかは真実も混じっていたのかもしれないが、それでもアッシュが自分を生かそうと必死になってくれていたことを。
「いやだっ……!俺はもう、おまえからなにも奪いたくないのにっ!」
 おざなりに中を慣らした指が、引き抜かれる。それを惜しむように自分のそこが収縮するのに目眩のようなものを感じながら、それでもまだルークは抗おうと必死にアッシュの体の下から逃げ出そうとする。
「……痛いのは、逃げ出した罰だと思えよ」
 ぐっと押し開かれた片方の足を、胸につくくらいにさらに大きく開かされる。
「やっ…!あっ、痛っ……あああぁっ!」
 拒絶するよりもはやく、押しつけられた熱塊がまだほぐれきっていない蕾へと押しこまれる。衝撃にきつくしまったそこに、アッシュが小さく息を飲んで舌打ちするのが聞こえた。
「…んっ……、ふっあ…あンッ…」
 後ろへの刺激で立ち上がりかけていたそこを再びゆるゆると刺激されると、きつく締まっていたそこがわずかに緩む。その間隙をねらってアッシュは一気にすべてをルークの中に押し込むと、さらに密着させるように軽く体を揺すった。
「はっ、あっ……んンッ」
 肌がこすれあう生々しい感触が、繋がった場所と足の付け根のあたりから伝わってくる。ルークは何度も大きく頭を横に振ると、自由にならない腕でなんとか体を離そうと必死にずり上がろうとした。
「あっ……」
 抗う動きにつれて少しだけ中に押し込められた熱塊が抜け出す感触に、思わず目を瞠る。硬く弾力のあるものが内壁を擦りあげる感覚に、悦楽を知っている体は敏感に反応する。
 それを狙っていたのかのように、まだ入り込んだものの大きさにも慣れきっていないそこをアッシュは激しく突きあげはじめた。
「…いっ…あっ!……やっ、やだぁっ……!」
 肌のぶつかりあう音と、突きあげられるたびに淫猥な水音が繋がった部分からあがる。中を抉るように突きあげてくるものが、知り尽くされた快楽のポイントを容赦なく抉ってゆく。
 勢いよく突きあげられるたびに、自分の立ち上がったものがひくひくと動きにあわせて揺れているのがわかる。
 触られなくても、そこはもう後ろからの快楽だけで達することが出来るように慣らされている。先端からにじみ出た精液が繋がった部分へと茎を伝って流れこみ、さらにそこをかき回す音を大きくしてゆく。
「……いやだっ……、あっ、アッ…あぁっ!」
 自分の中で暴れ回っているものが、しだいに大きくなってゆくのがわかる。内壁を擦りあげられるたびに大きくなったものに中を広げられ、さらに強い快楽を感じさせられる。
「やッ……あ、アッシュっ……!」
 終わりが近いことを察して逃げようと腰をうねらせるが、逆に当たる位置が変化するだけでなくさらに強く突きあげられて、煽られるような熱が増す。
 アッシュの手がルークの腰と足を掴み、さらに結合部を密着させるように擦りあわせてくる。
 ぱたぱたと胸の上に、汗で湿った長い赤い髪が落ちてくる。紅蓮のあざやかな色をしたそれが、突きあげる動きに連れて過敏になった肌の表面をこする。
「アッシュ、アッシュっ!……やだっ…!いああああぁっ!」
 自分の熱が弾ける強烈な快楽とともに、自分の中でもアッシュの熱が弾けるのがわかった。
 勢いよく突きあげてくる熱い迸りが、中を灼くように満たしてゆく。その熱と放たれた衝撃に震えが来るほどの悦楽と充足感を感じながら、ルークはもうずっと先ほどから涙腺が緩みきったような瞳をきつく閉じた。
 体の隅々まで満たされてゆくのが、飢えたいまなら怖いほどよくわかった。取り込んだ音素をすべての細胞が貪欲に吸収し、乱れた音を整え、循環してゆく。
 本当に、自分の体がアッシュから奪ったもので作り上げられてゆくのだと、思い知らされる。
「……あっ」
 ぼんやりとそんな思考を巡らしていたルークは、不意に体を軽く揺すられ、大きく目を瞠った。
「あ…しゅっ……?」
「まだ、たりねえだろう?」
 上気した、色気さえ漂う顔でにやりと不敵に笑われる。その表情に反射的に後ろを締めてしまい、その反動で中のものが再び力を持ちはじめるのがわかった。
「いやだっ!放せっ!」
「さっきからそればっかりだな、もう少し色気のある声をあげろ」
「なっ……、ンな時に冗談…んあっ!」
 ぐぷりと卑猥な音を立てて中のものが抜かれ、今度は体をうつぶせに転がされる。
 縛められた腕を掴まれて後ろにひかれ、上体が宙に浮く。その苦しさに顔をしかめたところを、一気に後ろから貫かれる。
「ひっ…、あああぁッ……!」
 まだ柔らかくひくついていたそこをは、なんの抵抗もなくアッシュを受け入れた。速い速度で刻まれる律動に追い上げられながら、何度も拒絶の声をあげる。
 だが体はさらなる快楽と、そして認めたくはなかったが、確かに足りない何かを貪欲に求めていた。
 もっと満たされたい。
 体が飢えたように何かを求めているのが、怖いくらいに感じられた。
 そんな自分の浅ましい欲求に、ルークはただひたすら押し寄せてくる自虐感に押しつぶされそうになっていた。




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何だろうこの乙女orz。