カノン・エピローグ




 達した瞬間、白くなる意識の中でやわらかく唇を吸われて、ルークはゆっくりと潤みきった瞳を開いた。
 手荒に追い上げられることに慣れた体には、優しく丁寧な指が与えてくる愛撫がもたらす快感は、甘い毒のように全身を侵していった。
 いつもよりも感じやすくなっていることがわかる体は、アッシュの指が少し触れただけでも溶けてなくなってしまいそうだった。
 たとえるなら自分自身が蜜のようにやわらかく溶けて貪られているような、そんな甘い痺れが全身を満たしてゆく。
 達した余韻に浸っている体に、指が潜り込んでくる。いつもは乱暴に痛みを伴いながら押し広げられるそこがやわらかく開き、奥まで導き入れるように蠢く。
「すごいな……」
 小さな笑いとともに呟かれ、僅かに残る理性が羞恥を訴えたが、すぐにそれも浮かされるような快楽へと流されていってしまう。
「んっ……あっ」
 一番感じる場所を擦り上げられ、信じられないほど甘い声があがる。
 何度も受け入れたはずの行為なのに、気持ちが違うだけでこんなにも感じ方まで違うなんて、考えたことがなかった。
 とても気持ちが良くて、そして満たされてゆく。
 意地悪く焦らされても、あの身の置きようのない切ない苦しさはない。不安を感じれば、まるでそれを読み取ったようにキスが与えられる。
 開かれてゆく手順も、いつものように無理矢理押し流されるようなものではなくて、くすぐったいほどに丁寧で。快楽に馴らされた体が歓喜の声をあげているのが、自分でもわかる。
 音を立てて引き抜かれた指の感触を惜しむように収縮した入口に、アッシュの口角が意地悪くあがるのが気配でわかった。でもそれは蔑むような冷たいものではなくて、体の奥底が熱くなるような羞恥を煽る色気を湛えていた。
「大人しくしていろ」
 あてがわれる熱の大きさに戸惑いながらも、ルークはそっと目を閉じた。深呼吸するように大きく息を吐くと、そのタイミングにあわせてアッシュの物が入り込んできた。
「んっ…!ああぁっ!」
 一気に奥まで入り込んできた物の先端が、快楽を生み出す場所を強く擦り上げる。先ほどまでの甘さが嘘のように激しく突きあげられ、かき乱される。
「うっ…あぁっ……んんっ!」
 反射的に逃げようとする体を押さえこまれ、強く抉られるように何度も突きあげられる。縋るものを求めるように手を伸ばすと、背中へと導かれる。密着した体の間でルークの物が擦り上げられ、追い上げられてゆく。
 無理矢理与えられて引き出される歓喜ではなく、ただひたすら求められて感じる快楽には、後ろめたさがない。
 ねじ伏せられるようにして抱かれていた時にも体は貪欲に快楽を求め感じていたけれど、いつでも心は触れられる喜びと虐げられる痛みに引き裂かれて悲鳴をあげていた。
 だけど今はもう、違うのだとわかっているから。どうしようもない生理的な不安はあっても、心は満たされている。
 激しく揺さぶられ、引き出される歓喜に理性が突き崩されてゆく。すでに限界に近いルークの物はアッシュの手の中に捕らえられていて、達することを許されない。でもそれは、次に来る大きな悦楽のためのものなのだと、頭の隅ではわかっているのだが、解放をもとめる体は不満を訴えている。
 宥めるようにキスが落とされ、さらに体を密着させるように奥底まで突きあげられる。その瞬間、強く締め上げたアッシュの物が自分の中で弾けたのがわかった。
 腹の奥底まで満たしてゆくようなアッシュの熱を感じながら、ルークはそれに追い上げられるようにして自分の熱も解放した。



 優しく髪を撫でる指に猫のように瞳を細めながら、ルークは横たわったまま隣で上半身を起こしているアッシュの顔を見上げた。
「なんだ?」
「ん、気持ちいい」
 素直にそう告げれば、少し驚いたように翡翠の瞳が見開かれ、すぐにそこにやわらかな笑みが乗る。
 くしゃりと大きく頭を撫でられ、本当の猫にするように喉の下を擽られる。それに小さな笑い声をあげると、ルークはアッシュの髪に手をのばした。
「なあ、キスしろよ」
 髪を掴んでそうねだると、苦笑しながらも軽いキスが降りてくる。それを受け止めると、まだ近い位置に唇がある間に、ルークは口を開いた。
「好き」
 飾らない、たったひとつの言葉。だけど何よりも、今の自分の気持ちを素直に表せる一言。
 何度も口にした言葉だけれど、今は少し意味合いが違う。
「そうだな」
 声は優しいのに、欲しい言葉はくれない。そういうところもひっくるめて全部好きなのだけれど、今はちゃんとした言葉が欲しい。
 思ってくれていることがわかったから、我が儘になっているのかもしれないけれど、それくらいは望んでも良いはずだ。
 そんな不満が顔に出ていたのか、アッシュがこちらを見て苦い顔をする。
「……好きだ」
 こうなったら次はどういってやろうかと考えを巡らせはじめたルークの頭の上に、突然その言葉が降ってくる。
「え?」
 思わず弾かれたように顔をあげると、いつの間に近づけられていたのかそのまま唇をふさがれた。
 そのままじゃれるように何度も唇をかわし、手と手を合わせる。
 伝わってくる体温と、聞こえてくるたがいの音。
 綺麗なユニゾン。
 回り道をしながらも、ようやくたどり着いたこの場所が満たされているのならそれでいい。
これからも、同じ音を奏でながら、ならんだり追いかけたりしてひとつのハーモニーを作ってゆく。
 はじまった場所は違っても、同じ旋律を奏でる対の存在。
 そんな自分たちは、まるでカノンの調べのように同じ旋律を奏でながら互いを追いかけていたのかもしれない。
 それは、二人の命がつきるまで続くひとつの音楽になるだろう。
 そして契約によって結ばれた命は、同時に終演を迎えるのだ。かの調べが、同時に終わりを迎えるように。

 
 音楽は、はじまったばかりだった。



END

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ここまで長々とおつきあいありがとうございます。ようやくENDマークを付けることが出来ました。
何度も詰まりながらも、コメントやメールで温かい励ましや感想をいただけてなんとかここまでたどり着くことが出来ました。
読んでくださってありがとうございます。
この話を書き始めてからようやくアシュルク中心ですと名乗れるようになったわけですが、そう言う意味でも私にとってちょっと特別な話になりました。
趣味全開、乙女系ベタネタ満載の話でしたが、ここまで楽しんでいただけていたら幸いです。

さて、最後に来るまで語るまいと思っていたので、後書きが長くてすみませんorz。
この話は意外にもアッシュの方に共感というか、アッシュ側への感想が多くて意外でした。途中まではなるべく意地悪く見えると良いなと思って書いていたのですが、どう見えていたのかは気になるところです。
そしてルークは乙女過ぎてなかっただろうか、とか実はかなりドキドキしながら書いていました。(たぶんこれはもう無理orz)
最後に、楽しみですと言ってくださった方々に感謝を!