もしかしたらの話





*この話は性的表現を含むため、18才以下の方の閲覧を制限します。
 




 

「なあ、聞いても良いか?」

まだ先程までの熱の名残を残した薄ピンク色の頬をしたまま、ルークが上目遣いに訊ねてきた。
その表情を見たアッシュはすぐにルークが何を聞きたいのかを察して、少しうんざりしたような顔になった。

「なんだよ、その面倒だって顔」

目ざとくその表情に気がついたルークが、ぷくりと子供のように頬をふくらませる。これが先程まで自分の下で熱に喘ぎ、艶めいた表情で自分を溺れさせていた相手と同じだとはとても思えない。

「どうせまた、面倒くせえこと考えてんだろ」
「またってなんだよ、またって!」
「いつだってテメエは、面倒くせえことをぐちぐち考えてやがるからな。単純馬鹿のくせに生意気なんだよ」

がばりと勢いよく起きあがろうとして顔をしかめたルークの鼻をつまむと、アッシュは軽くせせ笑った。

「……で、痛かったのか? それとも溢れそうになったのか?」
「なっ!」

さっと顔を赤らめて口をぱくぱくさせるルークにアッシュはニヤリと意地の悪い笑みを見せると、起きあがらせていた上半身を倒して上からルークの顔をのぞき込んだ。

「で、どっちだ?」
「こンのっ、変態エロ魔!」

からかうように顔を寄せてきたアッシュの顎を強く押しやると、ルークは顔を真っ赤にさせたままアッシュを睨みつけた。

「はぐらかすなよっ!」
「わかった、わかった。一応聞いてやる」

本気でつむじを曲げはじめたルークに、アッシュは仕方ないという表情を作ってかるく片眉をあげる。
ベッドの上でつむじをまげたルークを快楽で陥落させるのはかなり楽しい作業なのだが、今日はもうすでに一度満足してしまっているので、後で機嫌を取る面倒を考えると少しばかり譲歩しても良いだろうと考える。 そんなアッシュの心を見透かしているかのようにルークは不機嫌な顔のままアッシュを軽く睨みつけていたが、視線で促すと途端に表情を変えた。


「……なあ。もし俺が作られたときに屋敷に戻されたのが俺じゃなかったら、どうなっていたと思う?」
「やっぱり、くだらねえことを考えていたな……」


アッシュはやはりという顔になると、先程までの生意気そうな顔が嘘のように頼りなげな顔で自分を見あげてくるルークに、ため息をついた。おおかたまた、バチカル城内あたりで心ない中傷を耳にしたのだろう。
ファブレ邸では、今更彼らについてとやかく取りざたする者などいない。たしかに色々なことがあったが、それだけに屋敷の者達の誰もが二人がそれぞれ別の存在であることも、二人にそれぞれ別の役割があることも心得ている。
ルークがレプリカであることについて偏見を持っていた者も、いまでは考えをあらためているかどうしても納得できない者には暇をだしてある。だからルークが余計な考えを仕入れてくるとしたら、外から以外にない。

「別にくだらねえことじゃねえだろ。もしあのままアッシュがお屋敷でルークとして育っていたら、また違う未来があっても不思議ねえと思うし」
「ンな、あったかもしれない未来なんざ、起こらなかった時点でなかったと同じ物だろ」
「……そうなのかもしれねえけど」

それでもルークは納得がいかないのか、じっと問うようにアッシュの顔を見あげてくる。その顔にアッシュは小さくため息をつくと、ルークの上から降りて隣に寝転がると、頬杖をつきながらルークの顔を見下ろした。

「なにを言われた?」
「な、なんのことだよ……」
「バーカ、ンなのてめえの顔見りゃすぐわかるんだよ」

 力を込めずに額を小突くと、ルークの顔に困惑したような表情が浮かぶ。

「……アッシュが、もし何のブランクもなくずっとバチカルにいたら、今よりもっとちゃんと公務にも参加出来ただろうにって」
「くだらねえ……」

アッシュは決まり悪げに告げられたルークの言葉を一言で切り捨てると、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「くだらねえっておまえ……!」
「ンなくだらねえこと言われて気にしてんじゃねえよ、この屑が」

 ぺちり、と今度は少し額を叩かれて、ルークはムッとした顔になった。

「くだらなくなんてねえだろ! もし俺が生まれなければアッシュはずっとここにいて、そして……」
「そして、アクゼリュスで死んでいただろうな」

さらりと告げられた一言に、ルークはハッとしたように目を瞠った。

「てめえがいなけりゃ何も知らずに俺はあそこに送られて、そして死んでいた。預言は覆されることなく、世界は滅びへの道をたどっていた。たぶん、そうなっていただろ」
「……それは」

口ごもったルークに、アッシュは不機嫌そうに目を細めた。

「もしあの時テメエじゃなくて俺が戻されていても、屋敷に軟禁されることには変わりなかっただろうな。それに、ここにいたら本当の意味で外の世界について知ることもなかった。まあ、そのあたりは結果論だがな……。それよりも、てめえはもう自分が生まれなければ良かったなんて後ろ向きなことを考えるのは、やめにしたんじゃなかったのか?」

ぎろりとアッシュに睨まれて、ルークはバツが悪そうな顔で視線を反らした。しかしアッシュはそれを許さず、強引にルークの顔を自分の方へ向けさせた。

「ルーク」
「……わかっている。ごめん」

小さな声で謝りながらやはり視線を落としてしまったルークに、アッシュは内心もう一つため息を漏らした。



ルークは自分自身への中傷への耐性はそこそこできつつあるものの、いまだにアッシュとの関係についての中傷についてだけは本当に些細なことに傷つく。いくら済んだことだと言い聞かせても、その傾向だけは弱まることがない。
アッシュとの歪な関係はルークにとっての原罪のようなものかもしれない、と言っていたのはあのいけ好かないマルクトの大佐だ。だからルークの中からその罪の意識は拭われることはなく、いつまでもその思考の根底に根付いてしまったのではないかと。
こればかりはいくらまわりが言い聞かせても、そして贖罪の対象であるアッシュに言葉をつくされても、ルーク自身の意識が変わらない限り無理だろうというのが彼の意見だ。だが、それはとても難しいことだろうとも、ジェイドは言っていた。
きっと一生口に出しては言わない。
だけどもし、先程のルークの問いの答えにアッシュにとってひとつだけ意味があるとすれば。それは、ルークが自分の身代わりとして送りこまれなければ、その罪の意識がルークの中に生まれることはなかっただろうということだけだ。
だけどきっとそのことを告げれば、ルークはさらに傷つく。それがわかっているからアッシュは口にしない。
だからアッシュは、今でも自分がバチカルに戻らなくて本当に良かったのだと、心からルークに告げることが出来ない。たとえそんな微細な心の動きがルークに曲解されていても、さらに傷つけるようなその一言をのみこんでいるがために、その誤解を解くことが出来ないのだ。



アッシュはルークの腕を掴むと自分の下にもう一度引き込み、その白い腕の内側にキスを落とした。
唇の下で、薄い肌の下にある筋肉がかすかに強ばったのがわかる。そっと目を開いてルークの顔を見おろせば、びっくりしたように目を丸くしている。

「さて。ンなくだらねえことをまだ考えているようじゃ、きちんと躾し直してやる必要がありそうだな……」
「へっ…?」

色気のない声をあげた唇を掠めるようにキスをしながら、腕を掴んでいた手をそのまま胸元に滑らせ、まだひそかに色を宿している小さな膨らみをつまみ上げる。

「ンっ……! あ、アッシュ……?」

ぴくん、と小さく震えながら反応を示したルークが戸惑うように名を呼ぶ。それには答えずに膝で足を開かせると、まだ先程の行為の余韻を残しているルークのものを膝で何度かすりあげる。

「ハッ…、早いな」

あっさりと立ち上がりはじめたそれを膝で押して刺激しながら、ようやく事態を悟って逃げようとする体を引き戻す。

「ちょっ…! ンんっ……、ヒぁっ……!!」

きゅっと左胸の上にある小さな実をつまみ上げて動きを止めると、アッシュはルークの右足の膝裏を掴んで大きく足を開かせた。そしてその間に自分の体をすべりこませ、上からのしかかるようにして動きを止める。

「……あっ」

じわりと熱を持ちはじめていたアッシュのものがどこかに触れて感じたのか、戸惑うような声がルークから上がる。

「あっしゅ……?」
「文句ならきかねえぞ」

その言葉には、ふるふると首が横に振られる。どちらにしろここまで持ち込まれてしまえば、ルークにも逆らうだけの理由がないことはアッシュもわかっている。それに、なんのかの言いながらも、不安を強く感じているときのルークはアッシュに触れてもらいたがる傾向がある。ただ、羞恥が邪魔をして口に出来ないだけなのだから。

「もう一つ聞いてもいいか?」
「……またくだらねえことだったら、仕置きしてやる」

返事にならない返事をかえしながら、アッシュはルークの唇の上に軽いキスを落とす。


「もしこっちに戻ってきたとき、俺がいなかったらアッシュはどうしていた?」


かすかな不安をこめた瞳にアッシュは思わず目を瞠ると、すぐに意地悪く唇の端をあげた。

「愚問だな……。ンなの、何がなんでも引きずり戻してやったに決まってんだろ」

たとえそれが神に背くことになったとしても、たぶん自分は迷わずにその道を選んだろう。
それ以外の答えなんて、考えられない。

「……さて、くだらねえことを言いやがった屑レプリカには仕置きが必要だな」
「なっ…! ちょっと、まっ……。んふぅっ…、ンっ……」

立ち上がりかけていたルーク自身に指を絡め、強く扱きあげる。それだけでびくびくと体を震わせるルークの耳の下に強く吸い付くと、アッシュは低い笑い声を上げた。

「本気で生きていて良かったって、思い知らせてやるよ……」
「…ン…んなの、必要ねっ……!」

逃げようとする体をなんなく押さえつけ、唇を奪う。
すべてを喰らいつくすような激しいキスをあたえ、悦楽の入口へと引きずりこむ。余計な事なんて何も考えられないように。そして、ルークが生きて自分の腕の中にいるこの喜びを味わうために。
 


過去をふり返ることが、必要ないことだとは言わない。
だけど今そこにある現実に幸福があるのなら、必要以上に過去に答えを求めることもまた無意味だといえる。
過去に置いてきた仮定の未来を問うことは、いま目の前にある幸せに不安を覚える者がすることなのだから。
だからそんなことを二度と考えないように、幸せで今を満たそう。
いつか愛しい半身が、その罪の枷から放たれることを祈りながら。


END

(08/09/08)


この話はWEB企画「2RED」さんに投稿させていただいたものです。主催者様、ありがとうございました!