二律背反の恋




*(R18表現があるため、年齢に達していない方は閲覧しないでください)


 
 色あせたサーモンベージュのカーテンを透かした昼の陽射しは、傷だらけの木の床に赤茶けた影を落としていた。
 隙間からこぼれる陽射しがその上を切り裂く刃のように這い、さらに床にうずくまった人影の体の一部を薄闇の中から切り取るように浮かび上がらせる。
 光に灼かれたその部分だけが他よりも熱を持って疼くような気がして、ルークは居心地悪げに身じろぎした。
「……どうした?止まっているぞ」
 頭上から降ってきた硬く冷たい声に、ルークはぎゅっと唇を一度噛みしめてから、先ほどまで続けていた行為を再開させた。
 宿屋の埃っぽいベッドの端に座ったアッシュの足の間に顔を埋め、立ち上がった逞しいものを舌で舐めあげる。すでにこぼれはじめていた蜜と唾液とが交じり合って、淫猥な水音が薄暗い部屋の中に響く。
 その音に耳を塞ぎたい衝動にかられながらも、ルークは必死にそれに舌を這わせた。
「いつまで、舐めているつもりだ?」
 くくっ、と喉の奥で笑い声をたてながら、揶揄るような声がかけられる。
「それだけじゃあ終わらねえのは、わかっているだろう」
 まるで飼い犬を気まぐれに可愛がっているような手つきで、そっと髪を優しく撫でられる。そのやわらかな感触に、甘い疼きに似たものが背筋を這い上がった。
「……んっ、ふっ…ん」
 唇を開いて咥えると、熱い肉の感触が薄い皮膚と粘膜を通してリアルに感じられる。
 いつまで経っても慣れないこの行為に、自然とルークの眉間に皺が寄る。その悲痛な表情を冷たい表情で見下ろしながら、アッシュはこれ見よがしに呆れたような溜め息を一つもらした。
「あいかわらず、下手だな…」
 その言葉に、反射的にルークの瞳に反抗的な光が宿る。それに歪んだ笑みを浮かべながらアッシュはルークの頭を掴むと、自らの物を喉奥までねじ込んだ。
「んっ……ぐうっ…!」
 えずくような声が上がるのにもかまわず、湿った口内で自分を煽るように激しい抽送を繰りかえす。
 喉奥まで突きあげるような激しい動きについて行けず、自然とルークの眦に涙が浮かび上がる。
「んっ…ふっ、んんっ……」
 鼻にかかった苦しげな声が、口内の熱い粘膜を擦りあげて出入りする物の根本をくすぐる。
 口いっぱいに受け入れた物が敏感な口腔内の粘膜を擦りあげるたびに、押し込まれる息苦しさとその熱さに涙がこぼれる。
 もちろんこうされるのは初めてではなかったが、だからといって慣れるはずもない。だがここまで来たら、あとはアッシュが終わるのを待つことしかできないことも、わかっていた。
「……ふっ、んうっ…。んんっ」
 息苦しさに赤らんだ頬に、苦しげに歪んだ表情。そして眦を赤く染めて潤んだ瞳が、焦点を失ったようにぼんやりと宙を見つめる。
 その無防備な表情は常のものとは違いどこか艶めかしく、だが見下ろす相手が小さく喉を鳴らしたことにはルークは気がつかない。
 ただひたすら、責め苦が終わるのを待ちわびているだけだった。
「床を汚すなよ。こぼしたら、後始末はお前にさせるからな」
 一際激しく揺さぶられた後、喉の奥でアッシュの物が弾ける。
 勢いよく喉に流れこんでくる熱い物を必死に嚥下しながら、ルークは断続的に流れこんでくるそれに噎せそうになりながらも、必死に顔を寄せる。
 アッシュの言葉は単なる脅しではない。
 一度飲みきれずに床にこぼしたとき、そのまま犬のように這わされて受け入れながら床を舐めさせられたことがあった。
 それ以来、どんなに苦しくてもルークはすべて飲み下すように、努力するようになっていた。
 なんとかすべて飲み下し、残った物も吸いあげるようにして後始末をすませると、わずかに視線をあげる。
 それを受けて、ずるりと口内からアッシュの物が抜き出される。ようやくまともに息をできるようになった口で何度か深呼吸を繰りかえすと、顎をつかまれて上を向かされた。
 アッシュの指がルークの口の端をぬぐい、そのまま前に差しだされる。一瞬躊躇いながらも、ルークは舌を出してその指先を舐めた。
「よくできたな」
 こんな時だけ優しげに頬を撫でてくる指に目眩がしそうなほどの憤りを感じながらも、心のどこかではそうやって触れられることを喜んでいる自分がいることを、ルークは知っている。
 どれだけ自分の理性がこの行為を拒んでいても、本能はアッシュに触れられることを喜んでいる。
 気まぐれでも優しくされることを望んでいるのだ。



 すべてのはじまりは、ヴァンの行方を追うために再び旅立ってからのことだった。
 ローレライの宝珠を受け取り損ねた自分をなじるアッシュに対し、自分に何ができるのかと問うたルークに、何度目かの問答のすえにアッシュが提示した答えがこれだった。
 もちろんルークははじめ質の悪い冗談と受け止めていたのだが、次の瞬間にはベッドの上へと引き倒されたことで、それが冗談でも何でもないだのと言うことを思い知らされた。
 突然のことに激しく抵抗するルークに対して、アッシュは容赦なかった。それに、『何でもすると言ったのは嘘か』と問われれば、なけなしの抵抗さえもやすやすと封じられてしまう。
 それ以来、ルークはアッシュに呼びだされるたびに無理矢理抱かれるようになっていた。



「もっと足を開け」
 冷たい声とともに、容赦なく腿の内側を叩かれる。
 その振動がアッシュ自身をいっぱいに受け入れている場所にダイレクトに伝わり、ルークはびくりと大きく体を震わせた。
「聞こえなかったのか?足を開け」
 ルークはちいさく唇を噛みしめながら、命令されたとおりそろそろと足をさらに開いた。その緩慢な動きに焦れたのか、アッシュはルークの足を掴むと限界まで開かせ、さらに横に押し広げるように足を折り曲げさせた。
「……ひっ、あっ!」
 足を開かされたことによって広がった入口に、さらに奥の方まで熱い楔が打ち込まれる。
「まだ入るじゃねえか」
 くつりと小さな笑い声と共に、さらに奥の方まで熱をねじ込まれる。熱を帯びた内壁を固い物が擦りあげる感触に知らずに喉を鳴らしたルークに、さらにその笑い声が嘲りの色を増す。
「なんだ、感じているのか?」
「…ちがっ……」
「前をこんなにしておいて、何を言っている」
 そう言うなり、アッシュの手が先端から蜜をこぼしているルークの物を強く掴んで扱きあげた。
「やあっ……!ひっ、ああぁっ……!」
 強すぎる刺激にのけぞりながら逃げようとする体を引きずり戻され、めちゃくちゃな勢いで腰を揺さぶられる。
 過敏になっている内壁の粘膜を容赦なく擦られ、先端が狂ったような快楽を引き起こす場所を狙い澄ましたように突きあげ擦りあげる。
「イっ、ああああぁっ……!やっ…あしゅ…。いやだぁっ……!」
 狂ったように頭を振り乱して泣き叫ぶルークの体を押さえこみ、ただひたすら快楽を貪るように律動を繰りかえす。
 ルークの中は灼かれるように熱く、引き出すときに柔らかく締め付けてくるその感覚に酔いそうになる。
 泣き叫ぶその声さえも甘く耳に響き、悲痛に歪んだ顔がしだいに悦楽の色を醸してゆくさまを存分に堪能する。
「あ…んっ、んっ……」
 限界が近いのか、涙で潤んだ虚ろな瞳が宙を見つめる。赤く色づいた唇からはさらに赤い色をした舌がのぞき、熱く早い呼吸が苦しげに繰りかえされる。
「ひっ、あああぁっ……!」
 一際深い突き上げとともに、ついにルークが限界をむかえて前を弾けさせる。
 それにつられるように引き絞られた内壁に誘われるように、アッシュもルークの中に熱い物を弾けさせた。
 熱い蜜を奥底まで満たすように放つと、アッシュはルークの中から自身を引き出した。
 最後の太い部分を引き出すとき、ふるりと小さく震えたルークが焦点の合わない瞳でアッシュを見上げる。
 おそらく彼はいま自分がどんな顔で己の支配者を見ているのか、わかっていないだろう。
 そして、それを見ている相手がどんな表情で自分を見ているのかも。
 闇に意識をすいこまれるようにして意識を失うルークを、アッシュはそのままいつまでも見つめていた。



 いつの間にか、カーテンの向こうの光は茜色にそまりつつあった。
 宿の小さなベッドの上で気を失ったままこんこんと眠り続けるルークを見下ろしながら、アッシュはそっと壊れ物にでも触れるように薄く汗の浮いた額に触れた。
 ルークが目をさます気配がないのを感じ取ると、今度はそっと汗で額にはりついた髪を払ってやる。そして、長いまつげの下に隠れた、自分と同じはずなのに違う光を宿す瞳のことを思い出しながら、アッシュはそっとルークの額に触れるだけのキスを落とした。
 誰よりも愛しくて、誰よりも憎い存在。
 それがいま、自分の手の中にある。
 自分の運命を奪っていただけでなく、それこそすべてを奪い尽くそうとする存在のはずなのに、どうしてか憎しみと同じくらいの愛情を覚えずにはいられない。
 これは、やがて自分の命を食らう存在。自分という存在は遠からずこの体の中にとけ込み、おなじ物になるのだ。
 だから溶け合う前に、自分という存在を強烈にこの体に刻み込みたかったのかもしれない。
 アッシュの唇がわずかに動き、声にならない呟きが落とされる。
 それは、彼らをつなぐ短い言葉。
 そして、それは同時に彼らを永遠に縛る言葉でもあった。



END
(07/05/24)


突然書きたくなるエロ。