恋縛





*この話は性的表現を含むため、18才以下の方の閲覧を制限します。
 つか、見ちゃダメですよー。
 でもって、ちょっと無理矢理系でもあるのでそういうのがダメな方も
 避けてください。




 

甘い花の香りがした。
頭の芯を痺れさせるような甘いその香りは、まるで見えない鎖のようにルークの四肢や思考を絡めとってゆく。
花の鎖。
そんなことを朦朧とする頭で考えながら視線をずらすと、花瓶に生けられた白い花が見えた。
見た目は小さくて可憐な花だが、その香りは甘くて強い。
むせかえるほどに甘い花蜜の匂いは、虫たちを誘い込み彼らの生殖行為を代行させる誘惑の手管の一つだ。だから花の香りは蠱惑的なのだと、誰かが言っていたような気がする。
たしかにそうなのかもしれない。
甘く滴るようなその香りは、それだけで思考を狂わせてゆくような気がする。
そういえば、この花の名前はなんと言っただろう。
ぼんやりとそんなことを考えながら、ルークは自分の呑気な思考に薄く笑みを浮かべた。
ろくに動けもしないのに、余計なことを考える余裕はあるらしい。それとも、思考だけでも現実からの逃避をはかろうとしているのだろうか。



広い豪奢な部屋に置かれた、背の高い椅子の上。そこにルークはいた。
動かそうとした手は一つに括られ、緩やかなカーブを描く背もたれの高い位置にとめられている。足は大きく開かれ、左右の肘掛けに膝をかけるようにして縛り上げられている。
上着はそのまま着せられていたが、下肢は下着ごと取り払われてすべてがさらけ出されている。
拘束されている椅子の背がまっすぐではなく緩やかなカーブを描いているせいで、まるで腰を突き出すような体勢でルークはそこに縛り付けられていた。
もうどのくらいの時間そうされているのかさえ、わからなくなっている。
呼吸をする度に、自分の息が熱く湿ってゆくのがわかる。
息を吸う度に緩く動く下肢の奥にいれられた物が、その存在を主張するからだ。
それは耐えられないほど大きすぎるわけではないが、無視できるほど小さなものでもない。それでもルークが呼吸をする度に蠢く内部がそれを緩やかに締め付ける度に、確かに小さな熱が体中に広がっていった。
意識してしまえば、そこが熱く蠢いているのがわかる。
呼吸にあわせるように、入口が小さく震えているのも感じられる。
鈍い悦楽は感覚を研ぎ澄ませ、強い花の香りが思考を縛り上げてゆく。
それにしても、感じる熱が異常すぎる。
何か薬を使われたか、それとも花の香に紛れて香が焚かれているのか。
そのどちらも十分にありえるし、違うかもしれない。
だけどそれはルークにはわからない。
また一つ息をこぼすと、花の香りと体の奥に埋め込まれた物がじわりと理性を浸食してゆくのがわかる。
はやく、堕ちてこいと誘うように。



不意にドアの開く音が聞こえ、ルークはのろのろと顔をあげた。
こちらに人の気配が近づいてくる。
ぼんやりとした視界の中で、目の前の扉が開かれる。そこに立つ、ひとつの姿。

「どうやら大人しくしていたようだな」

響きの深い、だけど単調な声。
自分と同じ造作だとは思えない、ずっと大人びた容姿。

「アッ…シュ……」

名を呼ぶと、すっと薄く唇が吊り上がる。酷薄な笑みの形。
大人しくしているも何も、身じろぎ一つ出来ないようにルークを縛り上げていったのは目の前にいる半身だ。
そんな気持ちが表情にあらわれてしまったのだろうか、アッシュの表情が途端に不快げなものに変わった。

「なんだその目は?」

アッシュはルークのすぐ前までやってくると、手袋をしたままの手で手荒にルークの顎を掴んで上向かせた。

「……なんでもなっ…、ああっ!」

何の前触れもなく密かに立ち上がっていた物を握りしめられ、ルークは悲鳴を上げた。

「ここをこんなにさせておいて、何か不満でもあるのか?」

革の手袋に包まれた手で根本から先端までを扱きあげられ、先端の割れ目を指先で抉られる。手袋の縫い目が過敏な場所を擦り上げる異様な感覚に、大きく開かれた内股が大きく震えた。

「…ヒ…あ…ッ!」

素手ではない無機質な革の感触が何度もそこを扱きあげ、指先の縫い目に引っかけるようにして先端が無理矢理抉られるのに、腰が浮きあがる。

「なんだ、腰を振るほどイイか?」
「違っ……」

ゆるく頭を振って否定の意を示すが、鼻先で笑われる。
事実、そこを強く扱きあげられるたびにルークの腰は彼の意思に反して喜びに打ち震えるように蠢き、誘うようにゆらめく。だけど、それを認めたくはなかった。

「嘘をつくな。だったらこっちの口はなんて言うか、聞いてやろうか?」

するりと後ろの入口を撫でられ、ルークは大きく目を瞠った。
先ほどから前を弄られるたびに中のものを締め付けてしまい、そこからも快楽の熱が上がりはじめていた。
革の冷たい感触が、入口の襞をいっそ優しくさえ思える仕草で撫でる。
そこから上がってくる異様な感覚に耐えるように唇を噛みしめると、わざと先端の縫い目の部分でひっかけるようにして入口を撫でていた指が、不意に中に入り込んできた。

「…はン……っ、くっ……」

思わず反射的にその指を締め付けようとするが、極浅いところまでしかいれられなかった指は締め付けから逃げるように出て行ってしまう。仔犬が鳴くような声をあげて背筋をそらせたルークに、冷たい笑みが向けられる。

「やっぱり、こっちの口の方が素直だな。てめえの場合は」

アッシュの左の手がルークの喉元に伸び、やんわりと締め付けてくる。

「嘘しか言わねえんだったら、いっそ喉をつぶしてやろうか?」

首に当てられた手に力が込められるのに、ルークは慌てて大きく首を横に振った。アッシュの言葉は、どこまでが本気でどこまでも戯れ言なのかわからない。
ただ一つわかっているのは、彼がかつての彼とは違うことだけ。
首を軽く絞めていた手がまるで猫を愛撫するように喉元をなであげ、頬を優しく撫でる。
指で輪郭をたどられ、たったそれだけの刺激にぞくぞくするほどの快感がこみ上げてくる。
覗き込んでくる自分よりも少し色の濃い瞳。その奥にある暗い狂気の色に、ルークは瞳を閉じた。
降りてきた荒々しい口づけをされるがままに受け入れると、入り込んできた舌が痛いほど舌を絡み取り擦りあわせ吸いあげてくる。

「ふっ……んんッ…ふぁっ……ん、ンぁ……っ!」

音を立てて何度も唇があわせられ、その濡れた音にあわせるように立ち上がった物をゆるゆると扱きあげられる。
膨れあがってゆく熱に荒くなる呼吸はすべて合わせた唇から吸い取られ、息苦しさに悶えようとするのを許さないようにキスが追いかけてくる。

「ん……んンッ……! ひあっ……イヤだぁっ…!」

逃れようにも、四肢の動きを封じられたままではどうしようもない。それでも必死に悦楽に逆らおうとするルークに、苛立ったようにアッシュは手の中のものを強く握り、涙のように雫を流す先端を抉った。

「ああぁっ……!」

一瞬、思考も何も吹き飛ぶような開放感が体の中を貫く。弾けたものから放たれた白濁が顎の先まで飛び散り、その熱さに震える。
無理矢理導かれて達した瞬間には、淫らな至福感とたとえようもない虚無感しかない。
潤んでぼやけた視界の向こうに、呆けた顔をしているだろう自分の顔を覗き込んでいる翠の瞳。その色が近づいてきて、ざらりとした感触が顎のあたりを掠めた。
顔にかかった物を舐めとられているのだとわかり、呆けたままの思考はなぜか涙を流すことを選ぶ。その涙もアッシュの舌に舐めとられ、そのまま優しく愛しむように軽いキスが唇に落とされる。だけどそれがつかの間の優しさなのだと、ルークは知っていた。

「何か言いたそうだな」
「あ……」

すっと冷たく瞳が細められ、酷薄な笑みが唇に刻まれる。

「お…願いだから……抜いて…」

誘われるままに、願いを口にする。どんなに恥ずかしくてもそうしなければいつまでもこのままなことを、すでにこれまででルークは十分すぎるほど思い知らされていた。

「何をだ? はっきりと言え」

分かり切っているくせにそう問いかけてくるのも、いつものことだ。そうやってルークを追い詰めて、自分から望むように仕掛けるのがアッシュのやり方だから。

「中の……俺の…中に入っている…もの」
「自分で出せばいいだろう」
「やっ…できない…から」

暗にそのまま排泄しろと言われているのだと知り、必死に頭を横に振る。青ざめた顔で縋るように自分を見上げるルークに満足したのか、アッシュはそれ以上何も言わずにルークの下肢の奥へと手を伸ばした。
まだ手袋を外されていない指の感触は冷たく、潜り込んでゆく間も内壁をひっかくようにして奥を目指してゆく。指なのに指ではない感触は、その違和感ゆえに背筋が粟立つほどに気持ちが悪い。
しかしそれを拒めばさらに恥ずかしい事をさせられることがわかっているだけに、拒絶を口にすることは許されない。
アッシュの指が中に入り込んでいるものにあたり、軽く押す。それだけで過敏になった内壁に甘い痺れが走り、ルークはびくりと体を震わせた。

「なんだ、ここまできているんなら自分で出せたんじゃないか?」

 わざと揶揄るような口調でそう言いながら、アッシュはさらにもう一本指をルークの中に入れた。
一気に膨れあがった質量と違和感に小さく悲鳴を上げながらも、ルークは拒絶の言葉は口にしなかった。やがて指が引き抜かれ、中に入っていたものが目の前にかざされる。

「だいぶ、これにも慣れたみたいだな」

それはピンク色をした指の長さほどの物で、そしてそれをいれられるのも初めてではなかった。
青ざめたままそれには答えないルークに、しかしアッシュはそれを気にしたふうもなく床の上に放り出した。
アッシュの手が腰にまわり、ルークの体を引き寄せる。
後ろにまわった手が白い双丘を割り、先ほどまで異物をくわえ込んでいた入口を広げる。
そこに押しつけられる高い熱と質量に、ルークは目を閉じた。
じぶんのそこが、浅ましく押しつけられた物を吸い寄せるように蠢くのがわかる。
馴らされた体は、たやすく楽な方へとながされる。
強引に押し込まれる太い熱の塊を、すでに異物によって馴らされ濡れた場所は従順に柔らかく受け入れてゆく。



混濁してゆく意識の中で、ふと強い花の匂いを感じた。
甘い甘い、花蜜の香り。
そう言えばあの花は蔓性の植物なのだと、いつか誰かに聞いたような気がする。だからこんなにも絡みつくような甘い香りを放つのだろうか。
荒々しく揺さぶられながら、まるでその蔓草のように絡みついてくるアッシュの腕に抱きしめられ、悲鳴のような嬌声をあげ続ける。
なぜアッシュがこんな事をするのか、理由はわからない。
初めは単に自分を屈服させ支配するためだけにこんな事をするのだと思っていたけれど、理由はそれだけではないのだとなんとなく直感的に感じている。
だけどそれがどんな理由による物なのか、ルークにはわからない。
それでも、自分が強く求められていることだけはなんとなくわかる。
だからルークはこの行為を嫌がりはしても、完全に拒絶するような言葉を口にしたことはない。
そうしてはいけないのだと、どこかで誰かが囁くのだ。
絡みつく花の匂いがさらに強くなり、思考が混濁してゆく。
高まりゆく熱にすべてをゆだねながら、ルークは理性を浸食してゆくその花の香を深く吸いこむと、思考を手放した。


後には、絡みつくむせかえる花の香りの記憶だけが残った。


END
(07/10/13)