ラピュータス・2




 
「んっ……ふぅっ、んんっ……」

ゆるゆると柔らかく与えられる刺激に、ルークはちいさく啼きながら自然に潤みはじめている瞳で、いま自分を支配している相手を見上げた。

「なんだ?」

ルークの視線の意味に気がついていないはずはないのに、アッシュはそんなことはおくびにも出さない顔でそう訊ねてきた。
堅く張りつめたルークの物は何度も扱きあげられて、先端からこぼれ落ちた先走りの雫にまみれ濡れている。ゆっくりとアッシュの長い指が上下する度に淫猥な水音が響き、それは小さくひくついている後ろの蕾にすら達している。
しかし先程からはち切れんばかりになっているそこは、決定的な絶頂へと導く強い刺激を受けられずに、じりじりと燻るような熱を長引かされていた。

「…アッ……シュ、も…やっ……」

くちり、とまた理性を削るような水音がひとつ響く。今度は先端の小さな穴の上をそっと指先で撫でられて、その刺激にぞわりと首筋の後ろの産毛が逆立つほどの快楽を感じる。
だけど、まだ足りない。

「やっ……、…っ願い…!」

アッシュの掌に自分の物を擦りつけるように腰をうねらせれば、うっすらと嗜虐的な笑みが向けられる。だがその冷たくも見える笑みの裏には、自分を焼き尽くすほどの熱が押し隠されていることをルークは知っている。

「……しかたねえな」

わざと大げさなため息をついてみせながら、アッシュはルークの物を握りこんでいる手に力を込めた。

「んんっ…はあっ!」

うって変わって激しくなった下肢への刺激にのたうちながら、ルークはすべての熱が弄られている前へと集まってゆくのを感じていた。もう、恥ずかしいと思う気持ちもルークの中では鈍っている。ただ自分の中にある熱を解放したくて、それを与えてくれる相手にすがるだけ。

「ンっ…! はっ……やっあ、ああぁっ!」

まるでなにかを絞り出すようにきつく扱きあげられ、さんざん焦らされていた先端の敏感な場所へと爪を立てられる。それだけで、すでに限界を迎えていたルークの物は簡単に弾けた。
がくがくと全身に震えが走り、下肢と下腹に熱い物が飛び散り広がるのがわかる。達した余韻が体の隅々を満たしてゆく。しかしそれもすぐに無遠慮に割り広げられた双丘の間にある蕾を撫でられたことで、熱の中に引き戻された。

「ンっ……」

まるでねだるような鼻にかかった甘い声がもれる。気のせいか、熱を感じるのがいつもよりも早いような気がする。
焦らすように入口の襞を濡れた指で撫でられ、だけどそれだけでその指を迎え入れようとするように入口がひくつく。慣らされ切った体は簡単に快楽へと落ちる。まして触れている相手が自分の心をすべてを捧げている相手なら、なおさらだ。

「物欲しそうだな。ここも、おまえの顔も……」

唇の端を上げるだけの、意地悪な笑み。だけどそれに反発を覚えるよりも前に、小さな水音を立てて指が中に潜り込んでくる。

「……んっ……は、アっ……」

緩慢に焦らされていたのが嘘のように、乱暴に指が進められる。内壁が擦り上げられる感覚に背筋をのけぞらせると、突き出された胸の上の突起を軽く噛まれる。その甘い痛みに下肢の蕾がきゅっと締まり、ルークは頬が熱くなるのを感じた。

「イイ反応だ」

笑いを含んだ声が上から降ってくると共に、もう一本指が潜り込まされる。

「んっ…! ああぁっ!」

さらに激しくなった指の動きに、ルークはこみ上げてくる快楽の波を散らそうと必死に首を横に振る。しかしなおも追い詰めるように中を探ってくる指は自在に動きまわり、敏感な内壁を擦るだけでなく慣らすように中をひろげてゆく。だけどもっと深い快楽を知っている体は、さらにその先を求めようとする。
足りない。もっと確かなものが欲しい。そんな浅ましい欲が頭の中を駆けめぐる。
たぶん、いま自分はとても物欲しそうな顔でアッシュを見上げている。いつもならもう少し耐えられるはずなのに、どうしても押さえきれない。それでも言葉にするにはまだどうしても羞恥が先立ってしまい、ルークにできるのは視線で訴えることだけ。
その視線をどう受け取ったのか、アッシュはふと酷薄にも見える笑みを唇に刻んだ。元は同じ顔のはずなのに、アッシュにはそういう冷たい表情がよく似合う。だけどその笑みが以前の彼を思い出させ、ルークは自分でも知らないうちに小さく体を震わせていた。
そして、その予感が間違いではなかったことをすぐにルークは思い知らされることとなった。

「……んっ…! ひあっ……アあぁっ! やああぁっ!」

小さな音を立てて引き抜かれた指。その余韻を感じる間もなく、いきなり熱い質量をもったアッシュの物が押し当てられたと思ったら一気に突きあげてきた。
いつまでたっても慣れない挿入時の痛みと圧迫感。それにあえぐように大きく口を開いたところに、滅茶苦茶な勢いで突きあげられる。激しく擦り上げられる内壁が熱を持ち、痛みなのか快楽なのかわからない感覚が脳天まで突きあげる。

「やっ…! ひあっ…、やだぁっ……ひっ、はあっ……!」

息を吸うために開いた口はもう閉じることもかなわず、ただひたすら悲鳴に似た嬌声があがる。必死に呼吸を整えようとする側から突きあげられ、わけがわからなくなってくる。

「いやあっ……アッ…シュ……あっ! ああっ!」

がくがくと大きく体を揺さぶられ、密着するように近づけられた体の間で押しつぶされるようにしてルークの物が擦り上げられる。痛いくらいの快楽に、必死に縋るようにアッシュの寝着の上着を掴む。

「……やだっ! まっ…苦しっ…。ついてけなっ…、もっと…ン、ゆっく…り」
「これくらいで壊れねえだろ? てめえは。それに、本当はこうされる方が好きなんじゃねえのか?」
「やっ…! ンなことなっ……」

必死に首を横に振っていたルークは、いきなり前のモノを掴まれてさらに高い悲鳴をあげた。

「なら、こうされてこうなっているここはどういうことだ?」
「やっ、…ちがっ……」

必死に否定したくても、音が聞こえるほど激しく突きあげられてそれもすぐにかなわなくなる。
広げられた足が抱えあげられ、胸につくほど深く折り曲げられる。さらに深くなった繋がりに息が苦しくなるだけでなく、必然的に繋がっている場所が目にはいる位置に上がってきたことに、ルークは訳がわからなくなりながらも必死に首を横に振った。
涙でぼやけた視界をアッシュの舌が舐めてクリアにすると、アッシュを受け入れたそこが赤く腫れたようになってひくついているのが見える。
反射的にそこを締め付けてしまったのか、頭の上からアッシュの少し掠れたような艶のある声がこぼれ落ちてくる。その声に誘われるように、体の奥に震えるような甘い痛みが走る。

「……てめえ、覚悟は良いな」

呻くようなアッシュの声に答える間もなく、激しい律動がふたたび刻まれはじめた。

「ンあっ…! アッシュ……ア、シュ……っ!」

追い上げられる激しさに悲鳴混じりに名を呼ぶだけしか出来ず、必死に縋るように手を伸ばして目の前の体を抱き寄せる。
刻まれる甘い痛みと快楽。
追い詰められることに恐怖だけでなく甘い期待が入り交じり、一番快楽を感じる場所を突きあげられる度に震えをともなった快感が一点に集中してゆく。
そして一際強く押し上げられた瞬間、堰を切ったようになにかが溢れ出す感覚と共に自分の物から熱が溢れ出したのがわかった。
熱い迸りが胸に腹に広がり、いやらしい震えが中を震わせる。甘く鼻にかかるような短い声とともに、体の奥に勢いよく何かが放たれ注ぎ込まれる。ルークは胎内に広がる熱を感じながら、乱れた息を整えるように大きく息を吐いた。それと同時になかのものを締め付けてしまい、それがまだ勢いを完全に失っていないことに気付いてゆるゆると目を開くと、ルークはぼんやりとした顔でいま自分を支配している相手を見上げた。
上気した顔が、視線が合うと同時に意地悪な笑みを見せる。まだ終わりではないのだ。
いつもなら文句の一つもつけるところなのだけれど、どうしてか今日はそんな気にはならなかった。
だから代わりにルークは自分の胸の上に垂れたアッシュの長い髪を震える指でたぐり寄せると、最初と同じようにその髪にもう一度口づけた。
従順の証として。





ふと目を開くと、最初にアッシュの長い赤い髪が視界に入ってきた。

「起こしたか?」

低い呟きが上から降りてきたのに視線をあげると、すぐ真上にアッシュの顔がある。体がだるくて指一本動かせそうになかったが、背中が何か温かなものに包まれていて気持ちいい。
しばらくぼんやりと思考を止めていたルークは、微かに耳に聞こえてきた鼓動の音に、ようやく自分がいまアッシュの胸に寄りかかっているのだということに気がついた。
アッシュの大きな手がそっと優しく髪を撫で、喉を擽る。まるで猫かなにかになったような気分だったが、火照ったままの体にひんやりとしたアッシュの手は気持ちよかった。
そういえば冷たくされていたときも、こうやって自分を撫でてくれるアッシュの手はとても優しかった。だからこそ本当の心がわからなくてずっと深く傷ついていたのだけれど、本心を知ったいまではこうやって撫でられる事が素直に気持ちよく感じられた。

「おまえは俺の物だ……。それを忘れるな」

とろとろと眠りに落ちそうになっていた意識を、アッシュの低い声が引き戻す。
「なにがあっても、てめえを手放す気はねえ。逃げるなら地の果てまで追いかける。すでに契約を交わしたんだからな、今更逃げるなんて絶対に許さねえ……」
「ん……」

逃げる気なんて最初からない。そう言いたいのに、眠りに引き込まれそうな体は呂律が回らなくなっている。

「だから、不確かな物になんて祈るな。おまえが居なくなるときは、俺が倒れたときだけだ。そうだろう?」

主を失った剣には、存在理由がない。自分が先に倒れることはあっても、アッシュが倒れるときは共に自分の存在も失われるように。それが、ルークがアッシュと交わした契約だ。
もちろん後悔はしていないし、そうあれることを誇りにも思っている。
小さく頷いたルークに満足したのか、髪を撫でる手つきがさきほどよりももっと優しくなる。

「ルーク」

そっと名を呼ばれて上向かされると、優しく唇が重なってくる。
触れるだけの軽いキス。だけど、何よりも甘くて優しく心を通わせる方法。
遠くからやってくる星に願うよりも隣に立つ己に祈れという傲慢な心が伝わってきて、思わず笑みがこぼれる。
傲慢で意地悪で、だけど優しい己の所有者。その心を疑うわけではないけれど、時折不安になる。
だけどそれすらも許してくれないのだ、この頑固者は。
ルークは微笑もうとして、それすらもできない事に気がつく。少しでも気を抜けばそのまま眠りの中に落ちてしまう。
大好き、愛している。
そう伝えたいのに、言葉にならない。
なんとか目を開いてそれを伝えようとするが、優しく髪を撫でる手が気持ちよすぎて意識が重くなってゆく。

「……馬鹿が、聞こえているから安心しろ」

そんなルークに気がついたのか、ぼそりとぶっきらぼうな声が耳元で囁く。どんな顔をしてそんなことを言ったのか見たかったのに、その前に目の上にそっと手が置かれる。
優しい手が作る闇。
その闇に引かれるようにして、ルークの意識は完全に眠りの中に落ちていった。



* * *



完全に眠りの中に落ちたルークを抱き締めなおして、アッシュはそっとその額にキスを落とした。
なにを不安に思っているのか知らないが、自分がルークを手放すわけがない。そうでなければ、彼をこの世界に引き戻すためにあんな苦しいことをわざわざする必要なんてなかったのだから。

「もう少し、思い知らせてやる必要がありそうだな」

どれだけ自分がルークを大切に思っていて、求めているのか。それをこの半身に、嫌と言うほどわからせてやらなくてはいけない。

「覚悟しておけよ」

子供のようなあどけない寝顔にもう一度口づけると、アッシュはそう低く呟いた。
思う気持ちがどちらが強いかを、思い知らせてやる。
そんな思いを込めて。



END


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(08/01/04)


タイトルのラピュータスと流星群の繋がりがわかった方は笑ってください。