闇の中の手





*女性向け性的描写があるため、高校生を含む18歳以下は閲覧しないでください。








まるで闇に向かって手を伸ばしているようだと、何時も思っていた。
なにも見えない闇の中、何処に果てがあるのかもわからないままに手を伸ばして何かを掴もうとしている。自分がしていることはそういうことなのではないかと、そう思うこともがあった。
だけどやめることは出来ない。
こうやって手を伸ばした闇の先に、自分の手を握りかえしてくれるもう一つの手があるかもしれない、と思っているから。
だから何度でも、暗闇に手を伸ばす。
それが、あまりに儚い願いだとわかっていても。




「んっ…うぁっ!」

思わず漏れてしまった甲高い声を恥じるようにちいさく唇を噛むと、ルークは目の前にあったベッドヘッドをすがりつくように握りしめた。
声だけではない。いま自分が取らされている体勢のことを考えれば、目眩がしそうな程の羞恥がこみ上げてくる。
ベッドに膝をつき、腰を後ろに突き出すような形で上体だけを起こした体に、後ろから伸びてきた腕が絡みつく。その手が一枚一枚衣服を剥ぎ、いまではルークの体を覆っているのは首までたくし上げられたアンダーウェアがわりの黒いシャツ一枚だけだった。

「んうっ…!」

体中を這い回る手が、小さく立ち上がって充血している胸の上の小さな粒を軽く捻りあげる。何度も刺激を与えられたそこは、すでに痛みと同時に痺れにも似た甘い疼きを生み出す。
だがその甘い痛みに耐えるように目を閉じようとしたルークは、次の瞬間無理矢理広げられた足の間にあるものを強く握りしめられて小さく悲鳴を上げた。

「やあっ……! ぅんっ…はっ、はあぁっ!」

そのまま激しく何度か扱きあげられ、ルークは悶えるように何度も体を震わせると、必死に肩越しに自分を背後から抱きしめているアッシュの顔を見上げた。

「なんだ? その不服そうな目は」

浮かんだ涙でぼやけたその顔が、酷薄な笑みを唇に刻むのが見える。思わずそれに息を飲む間もなく、胸の上を這っていた手が左胸の上の小さな粒を押しつぶすようにして爪を立てる。

「やぁっ……! いたっ……!」

鋭く走った針を刺すような痛みに悲鳴をあげると、首筋のあたりを笑った気配がくすぐった。

「どうやら、痛い方が感じるみたいだな」
「……そ…んなことっ」
「じゃあ、これはなんだ?」

必死に紡いだ否定の声を嘲笑うように、中心を握られる。そこから伝わってくる刺激にふるりと体を震わせると、さらに低い笑い声が耳にすべりこんできた。

「さっき胸を弄ってやったら、大きくなったぞ? おまえの口よりも、こっちの方がずっと正直だな」
「ちがっ…!」
「煩せえ」

不機嫌をひそませた低い声を合図に、追い上げる指の動きが激しくなる。堅くなった中心を扱きあげ、時折悪戯をするように裏筋に引っかけるように小さく爪を立てる。

「やぁっ……、んんっ…ふぁっ……あああぁッ!」

激しい刺激に膝が崩れ落ちそうになるが、後ろから絡みつくアッシュの腕がそれを許さない。必死に縋るようにベッドヘッドに身を伏せれば、その背に乗り上げるようにアッシュの胸がピタリと合わされる。
がくがくと震える太ももに、布越しでもはっきりとわかえるほど興奮しているアッシュ自身が触れてくる。その感触にまるで焼き鏝でも押し当てられたように体を震わせれば、さらに追い詰めるように体が密着してくる。

「アッ…シュッ!」

悲鳴じみた声で名を呼んでも、絡みついた腕はさらに深くルークを抱き込む。ルーク自身を追い上げる手はさらに勢いを増し、すでに先走りの露を滲ませた先端を指の腹が強く擦る。そのたびに耳を塞ぎたくなるような湿った音があがり、耳の中を犯してゆく。

「んぅ…、ふぅあっ、……ああッ!」

ずり上がってきた腰がルークの腰に合わされ、質量のあるものが布ごしに双丘の狭間へと押し当てられる。入口に触れられているわけでもない。まして直接そこにアッシュのものが触れているわけではないのに、突きあげられ犯されているような錯覚を感じてしまう。
熱くて堅く質量を持った物が我が物顔に自分の体の中に入りこみ、中を擦り上げる。それをしめつける自分の中の感触や、押し広げられる入口のむず痒い痛みをともなった違和感。
ただ似たリズムで腰を押し上げられているだけなのに、それらの感覚がリアルにルークの体の中でよみがえる。

「んっ……、やあッ…! やだっ…、やあぁッ!」
「イヤだじゃないだろう? こんなことで感じているくせに。入れられもしてないのに、たったこれだけで思いだしているんだろう? 入れられて揺さぶられているときのことを」
「ちがっ…う」
「これだけしっかりと腰を振っておいて、よく言える。ただ体をくっつけられただけで、ここはしっかりと弾けそうになっているくせに」

中心を握りしめる指に力がこめられ、揺さぶられる。それにルークが大きく頭を振りながら悲鳴じみた泣き声を上げと、アッシュは後ろからルークの耳に噛みついた。

「安心しろ。一度イかせたら、望み通りめちゃくちゃにしてやる」

噛みついた跡を、ざらりと熱い舌が舐めあげる。それにルークが気を取られた瞬間、アッシュの指が涙をこぼすルークのものの先端の割れ目に強く爪を立てた。

「いっ、あああああぁっ!」

こもる熱に耐えようと丸まっていたルークの背が、弾かれたように後ろにのけぞる。それを受け止めたアッシュの体が、最後に強く押し込むようにルークの尻を腰で突きあげた。
弾けた自分の熱が自分の腹や腿をぬらしてゆく感触を感じながら、ルークは背後で自分を受けとめる強い腕の持ち主を思いながら、そっと涙を落とした。




誰かが、そっと髪を撫でている。
その泣きたくなるほど優しい感触を感じながら、ルークは指一本満足に動かすことができなかった。
あの後さんざん貪られた体は、すでに意識を保つことさえ危ういくらいに疲弊している。だけどこうやって自分が削られれば削られるだけ、アッシュの命は繋がってゆく。それを思えば、辛くはあっても幸せだった。
どれだけ手酷く扱われても、自分にはそうされるだけの罪があるのだとルークは知っている。
自分がこの世界にもどってくるために、アッシュが支払った代償。
自分の気を喰らうことでアッシュの命が一日でも一秒でも長らえることが出来るのなら、どんな仕打ちでも甘んじて受け入れるつもりだった。
手酷く抱かれるのも、無理のないことなのだとわかっている。大嫌いな自分を抱くことでしか命を繋げることの出来ないアッシュにとって、この行為は決して自分が望んだものではないのだから。
もちろん酷く扱われるたびに、ルークの心は軋みをあげる。
だがその奥底には、求められているのだという暗い喜びが潜んでいる。
アッシュにとって自分は生きるために必要な存在なのだと、それを歓喜する自分がいる。
そしてもう一つ、ルークの心を揺さぶるものがある。



髪を撫でていた手が、おそるおそるという感じで頬に触れてくる。
そっと愛しむようにその手はルークの頬を撫で、閉じた瞼の上にも触れてくる。
それが、先程まで自分を散々苛んでいた手と同じ手なのだとルークは知っている。
どうしてなのか、アッシュはルークが意識を失っているときだけは優しくしてくれる。
だからこそ、ルークの心は揺れる。
嫌われているだけなのなら、諦めもつく。だけどこうやって優しくされることがあるから、期待してしまう心が生まれる。
見えない心を探して、手を伸ばしてしまう。
だけどどうしてという言葉を、ルークは飲みこむ。
一度でもその問いを口にしたら、きっとアッシュは二度とこうやって触れてくれることはなくなるだろう。
だからどれほど問いたくても、ルークはその問いを口にしない。
そして、いつまでたっても見えない闇の先にある手を探して手を伸ばし続けるのだ。



いつか、その手を握りかえしてくれる手があることを信じながら。



END(08/02/28)




カノン本編中の、ルークの心情でした。