大切なことと簡単なこと




 てめえは大人しく留守番していろ、との被験者様のお達しがあったのは五日前のことだった。
 当然のことながら『なんでだ』攻撃を繰り出したルークに対し、アッシュはなぜかいつものように頭から怒鳴りつけることはしなかった。だがそのかわりに、今回の視察の趣旨について数時間にわたって事細かに説明してくださった。
 そしてついに最後に音をあげたルークに、不敵な笑みをひとつ残してバチカルをたったのだった。



「あ〜う〜、……ってぇ!」
 意味不明な声とともにごろごろとベッドの上を転がりまわっていたルークは、そのまま勢いあまってベッドから転げ落ちた。
 とっさに続けて飛んでくるはずの罵声に首をすくめるが、その声の主が不在だったことを今更のように思い出す。ルークは床の上に起きあがると、がしがしと頭を掻いてから天井を仰いだ。
 そういえば、共にこの世界にもどってきてからこちら、三日以上アッシュと離れていたことがなかった。そのせいだろうか、いつもは少し狭く感じる共同部屋が、ひどく広く感じられる。
 別に寂しいわけじゃないと自分に言い聞かせるように思うが、しおれたように見えるその背中を見てそう思わない相手はいないだろう。
 微妙に元気のないルークに、屋敷の者たちも表には出さないものの、心配げに様子をうかがっている。
 お茶の時間の菓子がルークの好物のものになっていたり、一人で食べる昼食のメニューが少し豪華になっていたり。部屋に飾られる花が心が浮き立つような明るいものになっていたり。
 すこしでも気が紛れるようにと、使用人たち一同でさりげない気配りが水面下でおこなわれていることにもルークは気付いていない。
 ほんの少しだけ気分がいいかもしれない、とぼんやり思っているだけだ。
 しかし、そんなところも可愛らしいなどと屋敷の者たちが微笑ましく思っているのは、アッシュの存在があるからだったりする。
 もともと我が儘いっぱいに振る舞って暮らしていた頃から、メイドたちはルークに対して概ね好意的ではあった。
 レプリカ問題が起こった頃はさすがに色々と思うところもあったようだが、いまではそれはたいした問題にはされていない。不満がある者はすでに屋敷を去っているということもあるが、次々とありえない問題が巻き起こるこの屋敷に勤めている者たちがすでに腹をくくっているからだ。
 すくなくとも、いまファブレ邸に勤めている者たちはちょっとやそっとのことでは動じないし、忠誠心も他の貴族の屋敷の使用人たちとは比べものにならないほどに厚い。
 そんな彼らにとっては、あまり手のかからないアッシュよりもどこか天然で甘えたところのあるルークの方が世話のしがいがあることもあって、つい贔屓しがちになる。
 もっとも、この家の者は屑に甘すぎると叫んでいる本人が一番ルークに対して甘いので、ようは屋敷ぐるみで甘やかしているようなものだったりする。  もちろんそんな自覚など微塵もないルークは、天井を仰ぎながらまた一つ溜め息をつく。
 そんなルークの溜め息にこたえるように、ふいに部屋の扉がノックされた。
「ルーク様。カーティス大佐がお目通りねがいたいといらっしゃってますが、いかがいたしますか?」
「ジェイドが?」
 思いがけない名前に思わず大きく目を瞠ったルークは、しかしすぐにぱっと顔を輝かせた。
「わかった。客間の方へ案内を」
「かしこまりました」
 扉の向こうから、メイドの気配が遠ざかってゆく。
 ルークは勢いよく床から飛び起きるようにして立ち上がると、ぱたぱたと服の埃をはらった。
「なんの用だろう、ジェイドの奴」
 思いがけない相手の訪問に驚きながらも、心が浮き立つのを止めることは出来ない。
 ルークは機嫌良く鼻歌を歌いながら部屋の扉を開くと、ジェイドの待っている客間へと急ぎ足で向かった。



「お久しぶりです」
 客間に入るなりそう笑いかけてきたジェイドに挨拶を返そうとして、ルークは大きく目を瞠った。
「どうしました?」
「いや、ちょっと珍しいもの見たってゆーか」
 まだすこし目を丸くしているルークにジェイドはさらに笑みを深めると、すこし首を傾けた。
「とりあえず、こちらにいらっしゃいませんか?」
「あ、悪い」
 ぽかんとした顔で戸口に立ちつくしていたルークは、ジェイドの言葉に慌てたようにテーブルの方へ近づいていった。
 そんなルークの様子を、軽く目を細めながら茶の支度を調えていたメイドが微笑ましく見つめている。それでは用がありましたらおよびください、と彼女は一礼すると、ありがとなと笑顔をむけてきたルークに綺麗な笑みをむけて部屋を出て行った。
「あいかわらずですね」
「は…?」
 唐突なジェイドの言葉にルークがきょとんと目を瞠ると、ジェイドは意味ありげな笑みを浮かべたが、それ以上は何も言わなかった。
「それよりも、何が珍しかったんですか?」
「あ、うん。ジェイドのそういう恰好って初めて見たから」
「そうでしたか?」
 言われて初めて気がついたといわんばかりに、ジェイドは薄いレンズの向こうにある赤い瞳を瞬かせた。
 今日のジェイドの服装はあの見慣れたマルクト軍の軍服ではなく、ハイネックの黒いシャツに薄いブルーのチュニック、そしてグレイのパンツというラフでシンプルな服装だった。
「なんか、普通の恰好をしているジェイドって変な感じだな」
「ルーク、正直なことがいいこととは限りませんよ?」
「うわっ!怒るなよ。似合わねえとか言ってねえだろ。ただ、なんつーか見慣れないから、ちょっと不思議な感じ」
 からかわれていることはわかっていたが、さすがに誤解を招く物言いだったことは自覚していたので、ルークは慌てて言い足した。
「そういえば、貴方の前ではあまりこういう恰好をしたことがなかったかもしれないですね」
 なにしろ行動を共にしていたときはほぼ軍服で通していたので、たしかにすぐにはぴんとこないのかもしれない。
「で、今日はどうしたんだ?」
「おや、久しぶりに友人の顔を見ようと訪ねて来たというのに、つれないですね」
「嘘言え。それだけじゃねーんだろ」
「半分は正解ですね。シェリダンに用事があって、その帰りに寄らせてもらったんです。だからこんな恰好で」
「ふーん」
 ルークは自分の前に置かれたカップに手を伸ばすと、紅茶を一口飲んだ。
「アッシュはいないようですね」
「うん。五日前から視察に行ってる」
 そう答えたルークの声にいつもとは違う響きを読みとり、ジェイドは軽く片方の眉を上げた。
「で、置いてきぼりにされたと」
「そういうわけじゃねえけど」
 むむっと眉をしかめたルークに、くつくつと小さな笑い声があがる。
「ナタリアも一緒に行っているのでしょう?」
「う……」
 そうなのだ。今回の視察は、ナタリアに随行するかたちでおこなわれている。別に拗ねているわけではないのだが、やはり置いてきぼりを食らっているような気持ちになってしまうのは心が幼いせいなのだろうかと、自分でも軽い自己嫌悪を覚える。
「というわけですから、今日は私につきあいませんか?」
「…へ?」
 ぐるぐると空回りするだけの考えに軽く落ち込みかけていたルークは、次に続いたジェイドの言葉に、思わず間抜けな返事を返しながら顔をあげた。
「こちらに来るのも久しぶりですから、街を回ろうと思っていたのですよ。ご一緒しませんか?」
 途端に、ぱあっと音がしそうなほどルークの顔が輝いたのがわかった。
「行く行く!すぐ着替えてくるから待ってろよ」
 椅子を蹴り倒さんばかりの勢いで立ち上がると、ルークはバタバタと騒がしい足音とともに部屋を飛び出していった。
 それを笑みで見送りながら、ジェイドは自分の前に置かれていたカップに口をつけたのだった。



 街に降りると、先ほどまでどこか憂鬱そうだったルークが、目に見えて元気を取り戻すのがわかった。
 軽い足取りでバザールの店先を覗きこんだり、広場の大道芸に興味深そうに見入ったりと、実に忙しい。
 旅先では、ふらふらと余計なものに気を取られるルークを主にガイやティアがかまっていた。しかし、今になって彼らの感じていた楽しさが少しだけわかるような気がして、ジェイドは笑みを禁じ得なかった。
「なに笑ってンだよ」
 笑いの気配を感じたのか、むすっとした顔でルークが見上げてくる。
「いえ、あなたのその服装が珍しくて。つい……」
 そうはぐらかすように答えながら、ジェイドはあらためてルークの服装を見つめ直した。
 着替えてくると言って戻ってきたルークの服装は、いつもの服に似た白い上着だったが、露出はかなり抑えられたものに変わっていた。上着の裾の切れ込みも浅く、アンダーもきちんと腹部を被うものに変わっている。
「アッシュがさ、なんかうるせーんだよな。屋敷の中じゃ前と同じ服装でも文句いわねえのに、外に行くときは絶対に着替えろってしつこいんだよ。そうしねえと人の頭平気で殴るしよ」
 この服も動きやすいんだけどなと面倒くさげに呟くルークに、ジェイドは笑いをかみ殺した。
「なんだよ?」
「いえ、なかなか似合いますよ」
 間違いなく独占欲の一端を見せつけられているのに、どうやらこのお子様にはそのあたりの理解が決定的に欠けているらしい。そう言うところがアッシュの怒りを買う原因になっているのだろうが、こういう無邪気なまでに鈍感なところもルークらしい。
 もっとも、こういう相手を恋人にするのは天国と地獄を一度に味あわせてくれる可能性が高いので、その苦労も忍ばれるというものだ。
 それでも、アッシュがルークに執着する気持ちもわからなくない。なにしろこの子供は、本当の意味で他人に関心を持つことのなかった自分を、ここまで変えさせた存在なのだから。
「あ……」
 何かに気がついたような声とともに上を見上げたルークにつられて空を仰ぐと、ジェイドの頬をぽつりと小さな水滴が叩いた。
 先ほどまで晴れていた空が、まるで時間を早廻しにしているかのように暗い雲に覆われてゆく。
 出し抜けの驟雨にあたりが騒然となる中を、ジェイドは咄嗟にルークの腕を掴むと、雨除けに脱いだコートの影に引き寄せた。
「昇降機まで、走れますか?」
 きょとんと目を丸くしてジェイドの顔を見上げていたルークは、その言葉に顔を輝かせながら頷いた。
 並んで走りながら、ジェイドは自分の懐近くにあるやわらかなぬくもりを愛しく思う自分に、心の中で苦笑する。愛情の形は違えども、庇護したくなるような気持ちは理解できなくもない。きちんと自分の足で歩けるどころか、逆に彼に救われると事が多いとわかっていてもだ。
 足元で雨の跳ねる音が大きくなる。
 上層行きの昇降機になんとかたどり着くと、二人は互いに顔を見合わせて笑った。
 そんなどこか共犯者めいたくすぐったい空気を甘く感じながら、ジェイドは昇降機の揺れに身をまかせた。



 屋敷の近くまで戻ってくると、雨は小降りになっていた。
「あれ?なんだろう」
 遠目に見ても屋敷の門の出入りが慌ただしいのが見て取れ、ルークは思わず首を傾げた。
「何かあったんでしょうかね」
 それにしてはせっぱ詰まった雰囲気は感じられないので、二人は特に歩調を速めることもなく屋敷に近づいていった。
「なにかったのか?」
 ルークに気がついた騎士団の一人が慌てて頭を垂れるのに、声をかける。 「先ほど、急にアッシュ様が戻られまして」
「アッシュが?」
 驚きの声をあげるルークに、はいと警護に立っていた騎士は短く答えを返した。ルークはジェイドのコートの下から抜け出すと、雨に濡れるのもかまわずにそのまま走り出そうとした。
「わっ、と……」
 しかし走り出すよりも速くジェイドの手がルークの腕を掴み、勢いあまってつんのめりそうになったところを、荷物でもかかえあげるように持ち上げられて立たされる。
 すとん、と地面に足がついたところでふり返ると、やたらと良い笑顔のジェイドがいた。
「いきなり走ったら危ないですよ」
 やわらかで優しい物言い。知らない人が聞けば騙されるだろうが、一年近く一緒に旅をしたルークは騙されない。こういう時のジェイドは、ロクなことを考えていない。
「では、行きましょうか」
 軽く肩を押されながら、ルークは胡散臭そうな目をむけた。しかしジェイドはただ目で笑うだけで答えない。だがその答えは、屋敷の玄関前までやってくるとすぐにわかった。
「……アッシュ!」
 大きく開かれた扉の向こうで仁王立ちするように待ちかまえていた己の半身を見つけて、ルークは今度こそ勢いよく駆けだして飛びつくようにして抱きついた。が……。
「いって──!」
 ガツン、といい音を立ててアッシュの拳骨が頭に落とされると、ルークは頭を抱えながらその場にしゃがみ込んだ。
「どこに行ってやがった、このボケっ!」
「いきなりなんだよっ!殴るこたあねえだろっ!」
 まだ衝撃にチカチカする目をなんとか開きながら、ルークは理不尽な暴力に対して異議ありとばかりに叫んだ。
「大人しくしてろって言っておいたのを忘れたのか、この屑がっ!」
「だから大人しくしてたっつーの!後も追いかけなかったし、屋敷も抜け出さなかったぜ」
「それじゃあ、いまてめえの後ろでにやけているあいつはなんだっ!」
 びしり、とルークの背後を指さしたアッシュに後ろをふり返ると、楽しくてたまらないと言わんばかりのジェイドの笑顔があった。
「いやあ、若いということは良いことですね」
「……てめえ」
 妙にとげとげしい空気が二人の間に広がるのを、ルークはわけがわからず首を傾げる。
 しきりに不思議そうに首を傾げいているルークに溜め息をつきながら、アッシュはルークの腕をひいて自分の方へと引き寄せた。
「いいからお前は先に中に入っていろ」
「え?でも」
「ずぶ濡れだ。風邪でもひいたら隔離するぞ」
 まんざら脅しだけとは思えないその言葉に、ルークは渋々従うことに決めると、ちらりとジェイドの方をふり返った。
 そんなルークに、ジェイドが小さく頷く。
 とたとたと先に中に入ってゆくルークの背中を見送ったあと、ジェイドはあらためて自分の前にいるアッシュへと視線を戻した。
「心の狭い男は、嫌われますよ」
「余計なお世話だ!」
 呻くように答えたアッシュの眉間の皺が、ますます深まる。
「勝手に人のレプリカを連れ出すな」
「おや、ルークの行動にあなたの許可が必要なのですか?」
 途端に、アッシュの表情がさらに苦々しいものに変わる。その顔を冷静に観察しながら、ジェイドは先ほどまでルークに見せていた笑みとはうって変わった冷笑を浮かべた。
「過ぎた独占欲は、相手を歪めることになりますよ」
「……何が言いたい」
「大切にするなとは言いませんが、外を知ってしまった小鳥を無理矢理閉じこめるのは残酷だとは思いませんか?」
 からかい半分の口調ながらも、何を揶揄されているのかを理解できないほど、アッシュは鈍くない。途端に殺気だった気配をまとった彼に、ジェイドは続ける。
「あなた方は互いに盲目的なところがあるようですから、そこをすこし自覚しておかないと。互いに依存しあうだけの関係は、歪んだ感情しか生み出しませんよ」
「うるせえ……」
「今日の所は、ここで失礼します。ルークには、また明日来ますと伝えておいてください」
「二度と来るな!」
 噛みつくような勢いで唸ったアッシュに、ジェイドはいつものようなあの得たいのしれない笑みを浮かべると、悠々とした足取りで門の方へ歩いていった。
 アッシュは小雨の中を遠ざかってゆくその後ろ姿を睨みつけると、くるりと踵を返して屋敷の中へと戻っていった。
 


 共同部屋に戻ると、先に部屋に下がっていたルークが着替えを済ませて髪を拭いているところだった。
「あれ?ジェイドは」
「帰った」
 アッシュは憮然とした顔でそう答えると、ルークの手からタオルを奪ってすこし乱暴にその頭を拭き始めた。
「もっと丁寧にしろよ!」
 文句を言うルークの頭をタオルごと包み込むようにして上向かせると、アッシュはきょとんと自分を見上げているルークの瞳を覗き込んだ。
「それよりも、俺になにか言うことはないのか?」
「へ?えーと。……おかえりなさい?」
 ぴくりとアッシュの肩が跳ねあがったのに、咄嗟にやばいと肩をすくめかけるが、次の瞬間ルークはアッシュの腕の中に抱きしめられていた。
「……アッシュ?」
「まったく、こういう時だけは……」
 呆れたように意味不明なことを呟きながらも、抱きしめてくる腕が思いの外優しいものあることに気付いて、ルークも体の力を抜いた。
「おかえり、アッシュ」
「ああ……」
 ふわりと、軽く唇があわせられる。
 その柔らかな感触が嬉しかったのか、途端に機嫌の良くなったルークが逆に抱きついてくる。その背中をあやすように軽く叩いてやりながら、アッシュはちらりと苦い笑みを浮かべた。
「でも、予定よりも随分と早かったんじゃねえか?」
 しかしアッシュのそんな表情にまったく気付くことなく、ルークは無邪気な問いをくりだした。
「思ったよりも順調に視察が進んだからな。なんだ?俺が早く戻ってきたらなにか都合が悪いか?」
「んなことねえけど……」
 決まり悪げにもごもごと口の中で呟きながらそっぽを向くルークに、思わず苦笑が浮かぶ。
「俺は、おまえに早く会いたかったがな」
 だから、からかい半分本気半分でそう囁いてやると、新緑色の瞳が驚いたように見開かれた。
「……恥ずかしい奴」
「そういうテメエはどうなんだ?」
 逆に問い返してやると、音が出そうな勢いでルークの顔が真っ赤になった。
「まあ、俺も同じだけど……」
 照れ隠しなのか、顔が見えないように抱きついてくるのを受け止めながら、アッシュはふと先ほどのジェイドの言葉を思い出していた。
 言われなくてもわかっている。
 己のルークに対する執着がどこか依存めいたものになっていることも、それが自分でも制御できないほど大きくなりはじめていることも。
 もっと距離を取らなければならないとわかっているのに、現実的な距離を取ろうとしても、このありさまだ。
 自分よりも色の薄い朱色の髪にそっと鼻先をうずめながら、アッシュは自分の中にある暗い感情へと目をむける。
 ルークをこの部屋に閉じこめ、ただひたすら自分の帰りを待ちわびることだけを考えさせることができたら、どんなに幸せだろうか。
 それが間違った考えであることは十分にわかっているし、現実的に無理であることも百も承知している。
 それでも、ふとした瞬間にそんな暗い考えが胸をよぎることがある。
 安心しきって自分に抱きしめられているルークは、自分がそんなことを考えているなど、思ってもいないに違いない。
「アッシュ?」
 自分を抱きしめる腕に力がこもったのがわかったのか、怪訝そうな声でルークが名を呼ぶ。
 その声を聞きながら、いつまでもその声だけを聞いていたいと思う自分の思考を振り切るように、その唇を塞いだのだった。



END (07/05/14)

5/4〜5/7の間にミニ連載していたものです。