黄昏のむこうの国




「つーかさ、俺はお前も言い奴だと思うぜ」
 先ほどまで言い合って剣を向けあっていたはずの相手にあまりにあっさりとそう返されて、ルークは思わず大きく目を瞠った。



 たぶん、面と向かってそんなことを言われたことがなかったから、どんな顔をすればいいのかわからなかったのだと思う。
 もともと屋敷の中だけで育てられただけあって、ルークは基本的に人見知りする方だ。自分から接触してゆくのはかまわないが、相手からこられるとどうしても引き気味になってしまう。特に積極的に相手から接触されると、どうすればいいのか戸惑ってしまうのだ。
 他人との接触が極限までに制限されていたこともあって、ルークはいまだに初対面の人間との距離を取りかねるところがある。
 でも、まだ出会って一時間もたっていない相手のはずなのに、自分に向けられた笑みがまるでお日様のように明るくきっぱりとしていて、思わず引き込まれてしまった。
「あ……ありが…とう」
 慌てて口ごもりながら礼をのべると、横に立っていた金髪の青年がちょっと不思議そうな目でルークを見た。目の色は違うけれど、感じが少しガイに似ているかもしれない。そう思ったら、急に楽な気分になった。
 お互いに名乗って、何となく柔らかな空気が流れる。
 ぱっと活発で明るく、興味津々という感じで他の二人を見ているロイドと、明るい感じの中にもおっとりとした優しい感じを滲ませているクレス。どちらもルークの近くには今まであまりいなかったタイプかもしれない。
 そして、二人ともに人を強く引きつける何かがある。
 それに少し気圧されながらもそれらしきことを口にすれば、やはりまた自分を肯定してくれる言葉をロイドはまっすぐと返してくれる。
 その言葉は決して飾った甘いものではなく、あくまでシンプルでまっすぐな言葉だったせいか、すとんとルークの胸の中に落ちてきた。
「……お前みたいな友達が欲しかったな」
 思わずぽつりとこぼしてしまった言葉に、ルークは内心驚いていた。本当に今さらだけれど、それが自分の本心からの言葉なのだと気がつく。だけど、それと同時に小さな罪悪感に似たものを感じて小さく首を傾げる。
 いったい何に悪いかもしれない、なんて思ったのだろう。
 だけどそんなことを考えるよりも前に、もう友達だろう、なんて当然のように返されてしまって、ルークの頭からはすぐにその疑問は消えてしまう。
 だってこんなふうにまっすぐに自分を肯定されたのは、本当に久しぶりのことだったから。


 ふと視線に気付いて隣をふり返ると、にこりとクレスが優しい笑みを向けてくれる。頼れそうなその優しい笑みに、ふわりと心が浮き立ってくる。
 ロイドの明るくてまっすぐな言葉に、クレスのやわらかな笑み。
 ああそう言えば、ここまであけすけで乱暴な口調ではないけれど、まっすぐな言葉をくれた人がいた。
 こうやって見守るように、優しく笑ってくれる人がいた。
 どうしようもなかったあの頃の自分でさえ、優しいと言ってくれた人がいた。


「ルーク?」
 こちらを伺うような、不思議そうなクレスの声がする。あれっと言うように、ロイドが瞳を丸くする。
 いま自分がどんな顔をしているかなんて、わからない。
 でも、たぶんいま自分は凄く情けない顔をしているに違いない。
 優しさ二つに囲まれている。
 それは、すこし前になくしてしまった同じ存在の友達に少し似ていた。



END

ファンダム三人組には萌えました。