星を砕く男2-1




*わりと裏要素濃い目のアレユリです。救い無し、軽い調教系。





扉の鍵がはずれる音に滑稽なほど反応した自分の身体に、ユーリは思わず口の端を歪めた。
こんなことに恐れを感じるなんて、まったくもって自分らしくない。だけど心よりも身体はずっと正直で、この音に続いてやってくる者の存在をすでに敏感に感じ取ってしまっている。
どうやら自分の世話を押しつけられているらしいレイヴンがやってくるときとは、あきらかに違う威圧感。これが帝国騎士団を統べ、さらに恐ろしい計画を眉一つ動かさず進める男がもつ威圧感なのだと、イヤでも思い知らされる。
それでもユーリは縮みこみそうになる自分の心を叱咤すると、なんとか伏せていた顔をあげてこちらに近づいてくるアレクセイを睨みつけた。

「相変わらず、歓迎されていないようだな」
「当たり前だ……」

ユーリはきつい眼差しでアレクセイの顔を睨みつけると、抗議するように自分の腕を戒めている鎖を鳴らした。
彼を戒めているのは、天井からつり下げられた太い二本の鎖。それぞれの鎖の先に、腕にはめられた枷がくくりつけられている。
身体を覆っているのは黒いシャツのみ。前は大きく開き、帯でなんとかとめられているが、白い胸がほとんど露わになっている。そして下肢にはなにも何もまとっていない。そんな姿でユーリは、大きなベッドの上に半分吊られたままうずくまっていた。

「いつまでもこんなもんで吊されていて、愛敬振りまける奴がいたらお目にかかりてえな」
「ふむ。君が無駄な抵抗をやめれば、私はいつ外してもかまわないのだがね」
「はっ! 騎士団長様ともあろう御方が、たった一人の騎士でもねえ男にそこまで用心すんのかよ」
「私は何事にも慎重なのでね。あいにくとその手の挑発には乗る気はない」

アクレセイは薄く唇に笑みを浮かべると、ユーリの顎を掴んだ。

「まったく……、あれほど痛めつけてもまったく矜持を失わないとは恐れ入る。できれば、君のような手駒も欲しかったところだな」
「そりゃ残念だったな。あいにくと、騎士団には短期間しか籍を置いてなかったんでね」
「小隊に振り分けられるよりも前に脱落した口だな。そうでなければ、私が君のような青年を見逃すはずがない。見つけていれば、その頃から手元に置いて可愛がってやったものを……奴のようにな」
「……今ほど、騎士団を退団してよかったと思ったことはねえな」

ユーリは挑発するように唇の端をあげると、薄く目を細めた男の顔を負けじと睨み返した。

「……とんだじゃじゃ馬だな。いや、雄だからそれらしく悍馬とでも言った方が良いか?」

感情のうかがえない赤い目でユーリを見下ろしながら、アレクセイは指でユーリの顎の線をたどった。

「どちらにしろ、馴らしがいはある」

ふっ、とこの男の本性を知らねば優しくも見える笑みを浮かべた途端、アレクセイはむき出しになったままのユーリの腿を掴んで強引に足を開かせた。

「……っ!! 触るなっ……っ!」

悲鳴じみた声をあげてしまったことに内心舌打ちしたい気持ちになりながら、ユーリはその手から逃げようと必死に後退ろうとした。しかしすでに何度も痛めつけられている身体で強く抵抗できるはずもなく、アクレセイの方に引き戻されてしまう。
蹴ろうと引いた足をそのまま持ち上げられ、バランスを崩した身体を腕で支えるような体勢になってしまい、思わず苦痛の声があがる。その間にもアレクセイは容赦なくユーリの足を開かせると、その奥へ何の用意もせずに指を入れた。

「……くっ…うっ……」

節のある太く強い指が遠慮の欠片もなく中を探り、内壁を抉るようにしてなにかを掻き出す。目眩がしそうな感覚は、すでに痛みではなく得体の知れないなにかに変わりつつある。
そう。認めたくはないが、連日こうやって中を弄られているせいなのか、最近では痛みよりももっと違うなにかが、すぐにユーリの理性に取って代わりそうになってしまう。指を動かされるたびに自分の中がそれを喜ぶようにうねり震えるのを、ユーリは確かに感じている。
ぞくぞくとうなじの産毛が粟立つようななにかが背筋を這い上がり、脳を冒していきそうになるのを必死に耐えていると、ようやく中から指が引き抜かれる。だがその最後に引き抜かれる瞬間に、侵されたはずの入口が名残を惜しむように小さく収縮するのを感じて、ユーリは唇を噛んだ。そんな彼に気がついているのかいないのか、アレクセイはユーリの中を探っていた指を目の前にさしだすと、指に絡んだ白いものを見せつけるように指を広げた。

「なんだ、完全に綺麗にしてもらわなかったのか?」
「……ざけんなっ!」
「奴には君の世話をするように命じていたのだが、どうやら行き届いていないようだな」

アレクセイは汚れた指を無造作にシーツで拭くと、自分を睨みつけているユーリを無視したままベッドを降りた。

「傷はきちんと治しているようだが、まさか奴にそこを触られていないわけではないのだろう?」
「……うるさいっ!」

せっぱ詰まったような声で叫ぶユーリに小さく笑いながらアクレセイは小さな瓶を持って戻ってくると、今度は逃げる間も与えずに後からユーリの身体を抱きすくめた。

「本当に君は、色々と仕込みがいがある……。さて、いつもの質問だが。私のものになる気はないか? ユーリ・ローウェル」
「誰がてめえなんかに従うか!」
「相変わらずだな君は」

いっそ優しくも聞こえる声が耳を擽り、指が優しく髪を梳く。

「では、いつものように楽しませてもらおうか」

耳の後に湿った唇が押しあてられ、肌を吸いあげられる。
しゅるりと音を立てて帯が引き抜かれ、シャツの前が大きく開かれる。無駄だとわかっているのに反射的に前に逃げた身体が鎖に引かれてつんのめり、腰に腕が回される。そのまま後に身体ごと引き戻されるのかと思っていたら、腰だけを高く上げるような四つんばいの恰好にさせられ、ユーリはぎょっとして背後をふり返った。
まさかこのままなんの馴らしもなく挿入するつもりかと、思わず表情を強ばらせるが、そんなユーリの考えを読んだようにアレクセイは小さく笑い声を上げた。

「心配せずとも、いきなり入れはせんよ。今日は、君にもっと素直になってもらうつもりだからな。そう、自分で入れて欲しいとねだるくらいには」
「ンなことてめえに言うくらいなら、死んだ方がマシだな」
「だが君は死ねない。そうだろう?」

ユーリは反駁する言葉をのみこむと、かわりに射抜く勢いでアレクセイを睨みつけた。

「守るものが多すぎるのも考えものだな……。あっという間に身動きが取れなくなる」
「うるせえっ!!」

苛立ったように叫ぶユーリに声に楽しげに目を細めると、アレクセイはむき出しになったユーリの形のよい臀部を確かめるように撫でてから、急に思い直したように片腕でユーリの身体を少し持ち上げ、自分の片方の足の上にまたがるようにして座らせた。
左の肩の上に後頭をのせるようにして抱き寄せられ、後からアクレセイの足が足の間に入りこんでくる。左腕一本で拘束されているだけなのにもちろん逃げることなど出来ず、ユーリは下唇を噛みながら顔を背けた。
頭の後で瓶の栓を抜く音が聞こえ、そのすぐ後に胸の上に何かとろりとした冷たいものが落ちてきたのに、ユーリはびくりと小さく身体を震わせながら慌てて自分の身体を見下ろした。
さきほどアレクセイが持ってきた瓶からこぼれ落ちた液体が、ユーリの胸の真ん中あたりを伝いながら、足の間に流れてゆく。冷たい液体の感触に、ざわりと肌が粟立つ。
アレクセイはさらにユーリの胸の上の小さな突起にもそれぞれビンの中身を垂らすと、それぞれ指ですり込むようにして擦りつけた。
その頃になってユーリは、それがようやくただの潤滑油がわりのものではないことに気がつき、強ばった表情でアレクセイの方をふり返った。

「気がついたかね? 君の想像通り、これは君のように強情な子でも少し素直になれる薬だ」
「……悪趣味だな」

心の底から蔑むような声と視線で、ユーリはそれに答えた。

「そうかね? 君はいつも随分と痛そうだから、すこしは気持ちよくしてあげようという私なりの配慮なのだが」
「はっ! 人を痛めつけるのが楽しくてたまらねえのは、てめえだろうが!」
「だが、それに最終的に喜んでいるこの身体も、相当なものだと思うがね」

残りの中身をすべてまだ反応してもいない敏感な部分にかけられ、ユーリは短い悲鳴を上げた。そして、そのまま冷たい液体を塗り込められるようにそこを握られ、びくりと大きく身体を震わせる。
アレクセイの指が丹念に形をたどるように撫で、上下に扱きあげられる。液体で濡れたそこはそのたびにくちくちと淫猥な水音があがり、まるですでに一度達したかのような音を奏でていた。

「……くっ…うっ……」
「まるで一度出した後のようだな」

考えていたことをそのまま口にされ、押さえきれなかった羞恥に頬が熱くなるのがわかる。
くっと耳元で笑われ、睨みつけようとふり返ったところを狙ったように、そこを弄る指に力がこめられる。思わず短い悲鳴をあげて跳ねあがった身体を膝立ちになるように引き上げられ、もう片方の手で尻たぶを無遠慮に開かされる。
濡れた指が入口の襞をなぞり、くちりと湿った音を立てて指が中に入りこんでくる。

「…うっ……ぐうっ……」

先ほどとは違い、今度は奥へ奥へともぐり込んでゆく指を追い出そうと力をこめようとするが、逆に中を探る指の形を鮮明に感じ取ってしまい、ユーリは下唇を噛みしめた。
アレクセイは何度も指を出してはユーリのものに絡みついているあの液体を掬うようにして後に塗り込めていたが、そうやっている間にも、ユーリは先ほど液体を塗られた胸の突起のあたりが、ジリジリと切なく疼きはじめていることに気がついていた。

「ふっ……うっ……」

じゃらりと、頭上で腕を戒める鎖が鳴る。
この鎖さえ外してもらえれば、ベッドの上に倒れこんで何食わぬ顔で疼く部分をシーツに擦りつけてしまえるのに。
そんなことは考えたくないと思っているのに、少しずつ回りはじめた薬の熱が、ユーリの矜持と理性をじわじわと浸食しはじめている。

「触って欲しいか?」

唆すような甘い声が、耳の後から聞こえてくる。
その声に頷きかけそうになって、ユーリは慌てて大きく頭を横にふった。ここで頷けば、アレクセイの思惑通りになってしまう。
呆れたようなため息が背後で聞こえ、ユーリの中から指が抜き出される。それにつかの間ほっと気を抜いていると、いきなり背後から両手で抱きすくめられる。

「……嘘はいけないな」

甘い甘い、脳髄を蕩かすような低い声。
ユーリの胸の上を後から伸びた二つの手が這い、固く凝りはじめている小さな突起がその指に優しくつまみ上げられる。

「……あっ…、ひィッ…やあああっ!!」

ぐっと力のこめられた指に、潰される。そしてそのまま円を描くように指を動かされ、すでに立ちあがっていた小さな突起はその動きに捻られるようにして押し潰され、あるいは悪戯に強く引っ張られる。
その度にぴりぴりと引きつるような疼きと痛み、そして恐ろしいほどの快楽が、腰から脳髄まで突きあげるようにユーリの身体をはしる。

「ほら、気持ち良いだろう?」

震えながら自分の膝の上で躍るしなやかな肢体に目を細めると、アレクセイは両方の小さな膨らみに爪を立てた。

「ひあっ……! うあぁっ!」

あきらかに快楽の色の濃い悲鳴があがり、びくびくと瘧にでもかかったかのようにユーリの身体が震える。どうやら、放つことなく達したらしい。
がくりと力の抜けた身体が、アレクセイの胸に寄りかかってくる。その重みを受け止めながら、アレクセイは薄く笑みを浮かべた。
まだ、こんなものは序の口だ。
長い悪夢のような時間は、これからだった。




続くかな(09/01/24)