ムスコと!さんのいくじさんからいただいた、うさうさ幼少フレユリです。
うちのウサ達のイメージで描いてくださったと聞いて、ほっぺ抓りました。
夢じゃないよね! 耳っこ可愛すぎる!!
シャツから半分見えている尻尾とか丸い膝とかがもの凄く可愛くて、そのまま攫って走って逃げたいほどです。着ているのはデュークのシャツと聞いて、さらに転げたのは言うまでもありません…。本当にありがとうございました!
そしてこの下にあるのは、いただいた時に絵のイメージで描かせていただいた小話です。うさにはうさ返しv
いくじさん、本当にありがとうございました!!



ふと読んでいた本から顔をあげると、雪になりきれない氷雨が窓ガラスのむこうの景色を白く煙らせているのが見えた。
どうりで寒いはずだとデュークはため息をつくと、小さくなりはじめていた暖炉の火を熾すために立ちあがった。
ここ数日で急激に気温がさがった帝都では、いつ雪が降るだろうかというのが最近の人々の話題だ。薪を足して火を熾しながら、ふとデュークは先日ようやく案内してもらった生き別れの弟の家のことを思い出していた。
下町にある質素なその家は、さびれた共同住宅の一角にある本当に小さな家だ。そこで、弟であるユーリは親友のフレンと二人で暮らしている。
キッチンの他には寝室が一つあるきりの本当に小さな家で、暖房設備など何一つない。ベッドの上にあった上掛けもごく薄いものが一枚きりで、さすがにそれは見過ごせず、デュークは後日温かな冬用の毛布を二枚二人の仔うさぎたちに贈った。だがこの寒さでは、それも大して役に立ってはいないのではないだろうか。そんなことを考えはじめると、きりがない。
本当のことを言えば、せっかく会えた可愛い弟なので手元に引き取りたいのだが、これはユーリ本人がウンと言わない。
それもしかたがないだろう。まだ物心もつかない赤子の頃に別れてしまったので、ユーリには家族の記憶がない。いきなり兄だと言ってあらわれた自分に、戸惑うのは当然だ。
それに、ユーリにはもうユーリの生活がある。片時も離れることなくくっついている親友のフレンも、しっかりとしたいい子だ。それにあの二人には、とうてい自分など入り込めないような絆がしっかりと結ばれている。それを引き離すような真似は、さすがに出来なかった。
そういえば、この雨の中であの子たちはどうしているだろう。
二人とも生活のために日々働いているのだが、まさかこんな寒い日に外で働いてはいないだろう。もしそんなことをやっているようだったら、さすがにやめさせなくては。
そんなことをぼんやりと考えていたデュークは、びくんと白い耳を大きく動かした。
外で、なにか音がした。客人か、それとも侵入者か。
あまり他人と交流のないデュークを訪ねてくるのは、配達の人間か騎士団からの使者くらいのものだ。部下たちも家には近寄らない。もっともそれは別に避けられているわけではなく、単にデュークが積極的に人を家に招きたがらないことを彼らも知っているからだ。
だが、こんな雨の中をやってくる者に心当たりはない。デュークはしばらくじっと外の気配を探っていたが、やがて小さな呼び鈴の音がしたので玄関の方へむかった。そして何気なく扉を開いたデュークは、そこにたたずんでいる二人の仔うさぎの姿を見つけて思わず目を丸くした。

「ユーリ……」
「よう! え〜と、いるとは思わなかったんで……」
「いいから早く入れ、二人とも」

デュークははっと我に返ると、あわててユーリたちを家の中に引きこんだ。
慌てたのは仔うさぎたちの方だった。全身雨に打たれてずぶ濡れになっていた二人は、床が汚れると騒いだが、デュークは有無を言わさず二人を抱えあげると、先ほど自分がいた暖炉のある部屋に二人を放り込んだ。

「いま、風呂の用意をしてくる。大人しく暖炉の前にいろ」

戸惑う二人に大きなタオルを二枚渡すと、デュークは浴室に湯を張りに部屋を出て行った。浴室の用意を整えて戻ってくると、タオルにくるまりながらも部屋の隅っこから動こうとしなかった二人の首根っこを捕まえて暖炉の前に無理矢理引きずってゆく。そこで濡れた衣服を全部脱がせると、あらためてタオルで二人の身体を包みなおした。

「まったく、この雨の中をマントも着ずに出歩くとは……。いったい何を考えている」
「いや、いつものことだし」

きょとんと目を丸くして答えたユーリの唇は、寒さのためか青紫色になっている。その隣ではもぞもぞとタオルで身体を拭いていたフレンが、小さくくしゃみをした。二人とも頭の上にある耳が寒さでへたれている。

「いいから風呂に入ってこい、二人とも。話はそれからだ」
「え? いや、すぐに俺たち帰るし」
「……ええと、ご厚意に甘えさせてもらいます」
「フレン!」
「だってユーリ、このままだと君が風邪引いちゃうよ」

じっと青空色の瞳に見つめられて、ユーリが言葉に詰まるのがわかった。それでもまだぐずぐずしているユーリを、デュークはふたたびひょいと抱えあげた。

「ちょっ! デューク!」
「うるさい。大人しくしろ……」

低めた声に、ぴくんとユーリの黒い耳が揺れる。ようやく大人しくなった仔うさぎに呆れたため息をつきながら、デュークは浴室の前でユーリをおろすと後からついてきていたフレンの方をふり返った。

「頼む」
「はい」
「何だよおまえら、勝手にわかりあうな!」

不満げに耳を立てるユーリの手をひいて、フレンは適当な返事を返しながら浴室に消えてゆく。それを呆れた目で見送りながら、デュークは居間へと戻っていった。
そして頃合いを見てキッチンに立ちココアを入れて戻ってくると、暖炉の前に風呂から上がってきた仔うさぎたちがいた。

「……やはり、少々大きかったようだな」

デュークはちょっと目を眇めて二人を見ると、そう呟いた。

「ちょっとどころじゃねえよ」
「すまない。あいにくと子供服はおいていなくてな」

今度は用意しておこうと言うと、デュークはココアの入ったマグカップを二人に渡した。
仔うさぎたちが今身につけているのは、デュークのシャツだ。細身とはいえ大人な彼のシャツは、ただでさえひょろりとした仔うさぎたちには大きすぎて、腿の半分あたりまで隠れてまるでワンピースのようにも見える。ここに来るまでに着ていた服は下着までずぶ濡れになってしまっていたので、下にはなにもつけていない。
だが仔うさぎたちはさほど気にすることなく、絨毯の上に座ってココアを飲んでいる。さきほどよりもずっと色つやのよくなった頬は暖炉の火に炙られているせいか、ほこほことリンゴのように赤くなっている。
それを満足げに見つめてから、デュークはあらためてなぜこんな日に訊ねてきたのかを訊ねた。
仔うさぎたちは互いに顔を見合わせてから、部屋の隅に投げ出したままになっていた濡れた鞄の中から油紙に包まれた小さな包みを取りだした。

「たぶん、濡れてないと思うけど」

はいと包みを差しだしてきたユーリに、デュークはどんな顔をしていいか分からず無言のまま包みを受け取り開いた。

「……これは」
「ええと、この前いただいた毛布のお礼です。あの、あんまりいい物じゃないけれど……」

もじもじしながらそういうフレンに、デュークは包みの中から現れたものを手にとってみた。
それは彼の瞳と同じ色をした、髪紐。先の方に小さな飾り玉がついていて、シンプルだがなかなか品は良さそうだった。

「これを、私に?」
「ええ、ユーリがはやく渡したいからって」
「フレン! 余計なこと言うな!」

動揺したように黒い耳が大きく揺れ、決まり悪げにユーリがそっぽを向く。だがすぐに、そろそろとこちらをうかがうように黒葡萄色の瞳がこちらを向くのがわかった。

「……ありがたく使わせてもらおう」

思いがけない弟からのプレゼントに、デュークは自分でも知らぬうちに微笑んでいた。それを見た二人の仔うさぎが、かすかに顔を赤らめる。

「二人とも、今日はこのまま泊まっていきなさい」
「え? で、でも」
「どうせ服は明日にならないと乾かないだろう。まさかその恰好のまま返すわけにはいかないからな」

二人はデュークの言葉に顔を見合わせると、小さく肩を落とした。だがその表情は、どちらもくすぐったそうに笑っていた。


その日、はじめて三人で囲んだ食卓は、外の氷雨など忘れてしまうほどに温かなものだった。