さんのゆいまさんからお誕生日にいただきました。
まさかのユーリとルーク!!! ていうか、もしかしてゆいまさんのお初ユーリをいただいてしまったのだろうかと、ドキドキしました。ああああ、可愛い!格好いい!!
去年も可愛い耳っこをいただいて転げたのですが、今年も本当にありがとうございました。うう、何時もありがとうございます。

でもって、下記はイラストにあわせて小話を書かせていただきました。イメージと外れているかもしれないですが、感謝の気持ちです!



「おい、これはどういうことだよ……」

ユーリはバンエルティア号のホールで、帰ってきたばかりのディセンダー一行に出くわすなり、思わずそう声をあげてしまった。

「う〜ん、なんていうか。不慮の事故?」

どことなく国にいる親友を思わせるような顔をした青年が、軽く首を傾げる。その両脇にいる無敵のお父さんクラトスと、色鮮やかなエキゾチックな衣装に身を包んだ可憐な法術士アニーは、どことなく困惑したような顔をしている。
それもそうだろう。
なにしろ彼らの中心にいるディセンダーの腕の中。そこになんだか見慣れた顔をした小さな子供が抱かれている。
目を閉じているから瞳の色まではわからないが、その特徴的な赤い髪を見間違えるはずがない。
ビショップにしてはがっしりしたディセンダーの腕の中、そこですよすよと眠っている小さな子供はルークに間違いなかった。



「これはこれは。また不思議なことがあるものですねえ……」

ともかく学者チームに見てもらおうと研究室にルークを運び込むと、彼の護衛兼補佐官でもあるジェイドは珍しく驚きを表情に見せた。その顔を見てユーリは、普段がいいかげんでも本当は彼がとてもこの子供を大切にしてるのだという事実の一端を見たような気がした。

「外傷はないようですが、とりあえず医務室に……」

そうジェイドが指示を出している途中で、研究室の隅に置かれたソファの上に寝かせられていたルークがもぞもぞと動きはじめた。

「ルーク、目が覚めた?」

その場にいた唯一の女性であるアニーが、ソファの傍らに膝をついてルークの顔を覗きこむ。ルークはぱちりと丸い目を開くと、キョトンとした顔でアニーを見つめ返した。

(可愛い……)

思わずその場にいた全員が、心の中でそっと萌える。
普段は子供っぽい言動に隠れてしまっているが、もともとルークはかなり整った顔立ちをしている。それが幼くなったので、可愛い部分が強調されているのだろう。もともとルークが持っている幼い雰囲気と見事に合致して、思わず頬ずりしたくなるほど可愛い。

「……えっと、どこか痛いところとかない?」

思わず至近距離で見とれそうになったアニーは、ハッと我にかえると慌ててルークに尋ねた。ルークはアニーの問いにこてんと小鳥のように首を傾げてから、ふるふると無言で首を横にふった。
アニーは悶えそうになる自分をなんとか押さえると、にこりと笑みを浮かべた。

「それならよかったわ。気分も悪くない?」
「お姉ちゃんだれー?」

ちょっと舌足らずな声で、ルークが逆に尋ねてくる。それにアニーは大きく目を瞠ると、慌ててジェイドの方をふり返った。

「ジェイドさん!」
「ルーク、私が誰かわかりますか?」
「……ふえ」

アニーの後からジェイドが顔を覗かせた途端、ルークが怯えて顔を歪める。

「おい、脅かすなよ。怯えてんだろ」

いまにも泣き出しそうな顔になったルークを見かねて、ユーリが割ってはいる。その声にルークはくるりとユーリの方に顔をむけると、目線をあわせるように腰を屈めたユーリの腕にぎゅっとしがみついた。

「あら……」

アニーが口元を押さえながら小さく驚きの声をあげる。

「あのおじさん怖い」
「……命知らずだなおまえ」

普段のルークなら絶対にいわないだろうことを平気で言う子供に、ユーリは思わず苦笑した。
ちらりと横目で見あげれば、珍しくジェイドがちょっと傷ついたような顔をしている。普段ルークを度が過ぎるほどからかっているからだと、ちょっと意地悪な気持ちになったりもする。

「どうやら小さくなっただけではなく、記憶もないようだな」

ユーリの腕にしがみついてじっと彼を見あげているルークを見て、クラトスが冷静な声で呟く。その声に興味を引かれたのか、ルークはユーリの腕にしがみついたままクラトスの顔を見あげて、にぱっと笑った。

「……」

無言のままクラトスが頭を撫でてやると、嬉しそうにはしゃいだ声をあげる。その様子を見てジェイドがなんとも複雑な顔をしているのを、ユーリは笑いをこらえながら観察していた。
なぜかルークは、お世辞にも愛想がいいとは言えない自分たちに、まったく警戒心を持っていないらしい。それに引き換え、なぜか本来彼を補佐しているはずのジェイドには最初から警戒心をハリネズミのように尖らせている。
普段人をくったような顔をしているジェイドが苦虫を噛みつぶしたような顔をするのなんて、滅多に拝めるものではない。

「ここやだ。どっか行く」

一通り部屋の中を見まわすと、ルークはユーリの腕をぐいぐい引いた。

「どっかって……」
「やーだー!」

ルークはユーリの腕を離すと、今度は首筋にしがみついてきた。

「お、おいっ!」
「どっか行くー」

ぎゅうぎゅうとしがみついてくるルークが、ちらりとジェイドの方を見あげて慌てて顔をそらす。どうやら完全にジェイドのことを警戒してしまったらしい。
ジェイドはそんなルークの様子に小さく肩をすくめると、ため息をついた。

「……しかたありませんね。私はこれからルークを元に戻すための方法を調べますので、それまでルークのお守りを頼めますか? ユーリ」
「お守りって……、別にいるだろルークの専属お守り役は」
「あいにくと、ガイとアニスは別の依頼で船を降りているんですよ。ティアは、こういってはなんですが子守には色々と不向きな性格ですから……」

ユーリはそう言われてジェイドの部下である少女のことを思い出し、なるほどと肩をすくめた。彼女を見ていると、ユーリはいつも本国にいる親友の副官を思い出す。真面目で優しい少女ではあるが、たしかに子供の世話をするには少々堅苦しすぎる。

「どうやらあなたに懐いたようですし。お願いいたします」
「……しかたねえなあ」

面倒そうにそう言いはしたが、ユーリも別に本気で面倒を見るのが嫌なわけではない。もともと困っている相手を見たら放っておけない方だし、子供は好きな方だ。
それに、ルークのことは個人的に気に入ってもいるから、好かれて悪い気はしない。

「そんじゃま、ちょっとだけ面倒を見ててやるからさっさと元に戻す方法を探せよ」

ユーリはルークの小さな身体を抱きあげると、ニッとジェイドの方に笑ってみせた。

「全力を尽くしますよ」

そう答えたジェイドの顔には、なんとも複雑そうな表情が浮かんでいた。



ひとまずルークを腕に抱いたまま、ユーリは食堂へむかった。
食堂ではパニールをはじめとした家事部隊の女性たちが、小さくなったルークを見て歓声をあげた。

「可愛いですねえ、ルークさん! 私にも抱っこさせてください!」

活発なリリスがユーリの手からルークを抱きあげようとするが、当のルークは泣き出しはしないものの必死にユーリにしがみつく。

「あら、ルークさんはユーリさんがお気に入りみたいですね」

おっとりとした優しい声で、クレアが笑う。

「いきなり知らない人ばかりで驚いているんじゃないかしら。見た感じ3っつか4っつくらいのようだし、人見知りする頃よね。すこしそっとしておいて上げた方がいいかもしれませんねえ」

パニールがぱたぱたと尻尾で飛んでいるのを見て、ルークが目を丸くする。どうやら人見知りはしているようだが、好奇心はもとのルークと同じで旺盛らしい。
それでもやっぱり不安なのか、ユーリの服の袖を握ったままいっこうに離れようとしない。しかも下に降ろそうとすると嫌がって泣きそうになるので、さっきから抱いたままだったりする。
もっとも、どうやら3〜4才くらいにまで縮んでしまったルークは小柄で軽いので、大した負担ではない。それにそこまで必死に頼られるとついつい保護欲がかき立てられて、守ってやらなくてはと思ってしまう。

「ちょうどおやつにクッキーを焼いたところですから、すこし持っていきますか?」
「助かる」

まだちょっと熱いですから気をつけてくださいね、とリリスが念を押しながら小さな包みを渡してくれる。受け取った包みはたしかにまだかなり温かく、もう少し冷まさないと今のルークには熱すぎるだろう。だが当の本人はその甘い香りにつられたのか、必死に手を伸ばそうとする。

「こら、ちゃんと後でやるから大人しくしていろ」

ユーリは包みをポケットにしまうと、ルークを抱き直した。

「なんだかそうやっていると、お父さんみたいですねユーリさん」
「……冗談きついぜ」

ころころと明るく笑うリリスに苦笑すると、ユーリはルークを抱えたまま食堂を後にした。
さてどこに連れて行くかと考えて、ユーリは甲板へと足をむけた。ちょっと寒いが、船内よりは人目は少ないのでルークも落ち着くだろう。
一瞬自分の部屋に連れて行くことも考えたが、ルークと同じくらい好奇心旺盛なお姫様のことを思い出して思いとどまる。もうちょっと落ち着いてからならいい遊び相手になるだろうが、いまだと逆効果だろう。もしうっかり泣き出されでもしたら、あの心優しいお姫様が落ち込むのは目に見えている。
甲板に出ると、すこし冷たいが気持ちのいい風が吹いていた。ユーリは甲板の隅に腰をおろすと、あぐらをかいた足の上にルークをのせた。
やはりちょっと寒いのか、ルークがもぞもぞとくっついてくる。その小さな身体を後から抱くようにして座らせると、安心したのかにぱっとお日様のような笑顔がむけられる。
その顔を見て、ユーリはなぜガイやジェイドがルークにとても甘いのわかったような気がした。おそらく彼らは、ルークがこの年頃から付き合いがあったのだろう。そして今でもきっと彼らの中では、この頃のイメージが抜けていないに違いない。
まあたしかにあの年にしてはかなりあぶなっかしいのは確かなので、心配にもなるだろう。ある意味、エステルと同じような感じだ。
そんなことをぼんやりと考えていたユーリは、急にルークがなにかに怯えたようにしがみついてきたのに我にかえると、ルークの顔を覗きこんだ。

「どうした?」

だがルークはユーリにしがみついたまま、なにも言わない。ユーリはそんなルークの視線を追って顔をあげると、大きく目を瞬かせた。

「おい、なんだそのガキは……」

おそらく外から帰ってきたばかりなのだろう、マントを着たままのアッシュが怪訝そうな顔でこちらに近づいてくる。

「言っとくけど、俺の子じゃねえからな」
「そんなことはわかっている」

アッシュは苛立ちを隠さない口調でそう言うと、じろりとルークを見下ろした。

「……まさか、あいつか?」
「顔を見ればわかるだろ」

答えになっていない答えに、アッシュの表情が険しくなる。

「ったく……。なにヘマしてやがるんだ、こいつは!」
「そう怒るなよ。原因はまだわからねえんだから」
「どうせまたこいつの事だから、ふらふらしてやがったんだろ。馬鹿が!」
「ふえ……っ」

苛立ちを隠そうともしないアッシュの声に隠れて、小さな声があがる。あマズイなとユーリが思ったときにはすでに遅かった。

「…っく……えっ…うわああああぁん!」

ぼろぼろっと大粒の涙が丸い頬の上を滑ったと思ったら、ルークはまるで火がついたかのように大声で泣きはじめた。

「あ〜ほら、泣くなっての」

ユーリは慌ててルークを抱いて立ちあがると、軽く背中を叩きながらあやしはじめた。
ぐずる子供をあやすのは、下町で子供たちの相手をして慣れている。真っ赤な顔をして泣きながらしがみついてくるルークの髪を撫でてやったり、抱きあげた身体を軽く揺すってやったりしながら、ふとこちらを呆然と見ているアッシュに気がついてユーリは器用に片眉をあげてみせた。

「悪りいけど、どっか行ってくれるか」
「なっ! べ、別に俺はっ!」
「バカ、でかい声出すな! ……って、泣くなよお前も」

アッシュの声に一際大きな声をあげて泣き出したルークの背中を撫でてやりながら、ユーリはポケットに入れていたクッキーの包みを取り出した。

「あんまり泣いていると、やらねえぞ」
「……うっく…やだ……」
「んじゃ、泣きやめよ。男だろ」
「う〜……」

ルークはちらりとうかがうようにアッシュの方を見てから、慌ててユーリにしがみつく。その様子に苦笑しながらユーリはルークの髪を撫でると、目線でアッシュにこの場を去るように指示する。
アッシュは不機嫌を露わにした表情で踵をかえして船内へと入っていったが、心なしかユーリにはその背中がどこか哀愁を漂わせているように見えた。
まあたしかに、普段うるさいほどに好き好きオーラを出して自分にまとわりついてくるルークに、ここまで怯えられてはアッシュも立つ瀬がないだろう。
ちょっと可哀想に思わないでもないが、いつもアッシュに追い払われたと言ってへこんでいるルークを知っているだけに、ちょっといい気味だと思わなくもない。
もっとも、あれでいてアッシュもルークのことを気にかけていることも、ユーリは知っている。ただ非常にわかりづらいだけなのだ。
まだ半分泣いているくせに、早くクッキーを寄越せとルークが髪を引っ張ってくる。まったく、本人が他人を振り回している自覚がないところは小さくなっても変わらないらしい。
そんなルークに苦笑しながら、ユーリはその小さな身体を抱きあげ直した。


その数日後、元に戻ったルークがなぜか態度を軟化させたアッシュに嬉しそうにつきまとっている姿が船内で見られたらしい。


END