シャルロットは語る・4
「ちょっとそこのデコ。ちゃんと自分の犬に待てくらいは躾ておいてよね!」
うんざりとした声とともにルークに続いて降りてきたシンクは、降ってくると同時に横合いから斬りかかってきた相手を蹴り倒した。
「あんたの姿を見るなり飛び降りるなんて、ボクが風の譜術でクッションを作らなかったらどうなってたと思う?」
シンクありがとなー、などと呑気に手を振ったルークの頭にもう一度拳を食らわせてから、アッシュは空を仰いだ。
青い空を、見慣れたアルビオールの銀色の翼が低空飛行で掠めてゆく。
あそこから飛び降りたのかと、思わず軽い目眩を覚えるが、いまはそんな事よりも先に問い詰めなくてはならないことがあった。
「お前ら、なんでここに居る」
「ついでにいうなら、あっちには親馬鹿もいるからね」
さらに起き上がってきた相手にとどめとばかりにハイキックを食らわすと、シンクは不機嫌そうな顔でこちらをにらみ付けてくるアッシュに鼻で笑った。
「ご主人様の言いつけでね、ここまで案内しろって言うから連れてきただけだよ。ボクはしがない使用人だからね」
こんな時だけ使用人であることをことさら強調するシンクを、アッシュは鋭く睨み付けた。
「お前らには、バチカルで待機を命じたはずだ」
「おあいにく様だね。あいつの主人はルークだし、ボクの主人はあんたら二人だ。それにあんたが言いつけていったのは、あの犬っころのお守りだろ?」
シンクの指さす先では、喜々として犬っころ呼ばわりされたルークが剣を振るっている。たしかに、散歩の途中でリードを放されて喜び転げまわっている小犬に、見えなくもない。
「だったら、尚更なんでここに連れてきた」
敵の狙いをルークから自分に向けるために、わざわざ今回はルークをシンク達にまかせて単独行動を取ったのだ。だがこれでは、全く意味がないではないか。
「あんたが過保護なのはわかってるけど、のけ者にされていじけるお子様のお守りがどれだけ大変か、わかってる?」
「知るか! そんなこと」
誰よりも大切な相手を精一杯危険から遠ざけて、なにが悪い。ルークがどう思うかではなく、彼を守ることがアッシュの中では常に優先される。
「それより、いまはこいつらをどうにかするのが先決でしょ。……全く、綿密に計画を練るようで案外あんたは抜けてるんだからね」
「なっ……!」
「ほらほら、文句は後で言いな。ワンコが勝手に走っていってるよ」
顎でしめされた方向を見やれば、いつの間に突っ込んでいったのか、群がってくる相手に剣を振るうルークの後ろ姿が目に入る。
「あんたと違ってあいつは人間を相手にするのは苦手なんだから、さっさと援護に行ったら?」
そう言うなり詠唱をはじめたシンクに舌打ちを一つすると、アッシュはルークの後を追って乱戦の中に突っ込んでいった。
いくつか切り結んだ後、声を掛け合うこともなく自然に背中合わせになり、呼吸を合わせる。
「……考え無しに突っ込むな、馬鹿が!」
「うるせえな。もともとはアッシュが一人で突っ込んでいったんだろ」
向かってきた相手を剣ではね飛ばしながら、ふり返ることもせずにルークが不服そうに言う。
「これは俺の問題だ。てめえには関係ねえ」
「嘘つけ! ガイ達に聞いたぞ」
同時に同じ技を放ち、また背中あわせになる。その動きはまるで鏡に映ったように同じで、乱戦の中でそこだけ浮き上がったように均整の取れた美しさがある。
「とにかく、こいつらを片付けちまおうぜ。遅れンなよ」
「てめえ、誰に言ってやがる」
一瞬だけ背中が触れ、すぐに離れる。切り結び、相手と体を入れ替えたところに、シンクの風の譜術が投げ込まれる。
元が剣士のアッシュと違い、導師のレプリカでもあるシンクは譜術に長けている。無造作に放たれたように見える今の術も、敵だけをなぎ倒すように微調整されている。
おそらく、一騎当千とまではいかなくともそれなりの精鋭をそろえてきていたのだろうが、あの戦いをくぐり抜けてきた四人に勝てる者がそうそういるはずもない。
船尾からあがってきたガイと合流する頃にはあらかた決着はつき、襲撃犯のリーダーとおぼしき相手を捕らえると、ルークは満足げに剣を鞘におさめた。
後始末はアッシュが引き連れていた白光騎士団にまかせると、四人はそのままアッシュの船室へと移動した。
「何で来やがった……!」
部屋に入るなり、アッシュはルークの胸ぐらを掴むと低い声色で問いただした。
「アッシュこそ、なんで黙ってたんだよ!」
だが負けじと睨み返すルークにアッシュは舌打ちすると、突き放すようにして手を離した。
「お前らもだ。俺はこいつをバチカルに引き留めておくように言ったはずだ」
「正確にはルークをなにがなんでも守ること、としか言わなかったけどな」
腹立たしいほどに爽やかに言い切ったガイを横目で睨みつけると、アッシュは拗ねたように唇をとがらせて自分を睨んでいるルークに視線を戻した。
「だいたいテメエ、アルビオールから飛び降りるとはどういうことだ。目測誤っていたら、そのまま甲板にたたき付けられていてもおかしくなかったじゃねえか!」
「それは同感かな。まったく、無茶するよね」
とっさに自分が譜術を投げ込んでなければどうなっていたことか、と肩をすくめるシンクに、アッシュの目が半目になった。
「……てめえら、少しは黙っていろ」
だんだんと、アッシュの声のトーンが低く落ち着いた者になってゆく。怒りが深まりはじめている証拠だ。普段から声を荒げることの多いアッシュだが、本気で怒りはじめると声のトーンが下がってくるのだ。
「だいたい、俺はついて来るなと言ったはずだ。そんな簡単な言いつけも聞けねえのか、この屑がッ!」
「自分勝手に行動するおまえには言われたくねえよ。だいたい、俺らが助けに入ったから被害もほとんどなかったんじゃねえか!」
「てめえの手なんざ借りなくっても、なんとかなったんだよ。このボケっ!」
その言葉にぐっと表情を歪めたルークに、アッシュは内心しまったと舌打ちした。使用人二人からも、冷たい視線が向けられる。
「そりゃ俺はアッシュよりも色々劣ってるし、おまえには余計なお世話だったかも知れねえけど、でも、またただ守られているだけなんて冗談じゃねえよ」
大切に思って守ってくれているのだということは、分かっている。それが嫌なわけでもない。むしろ、気にかけてくれるのだと思うだけで、心が浮き立つ。
だけど、お姫様のように何も知らされずただくるまれるように守られるのは、やっぱり我慢がならない。
「俺だってちゃんとアッシュのこと守りたいし、役に立ちたい。そこのところ、忘れるんじゃねえよ」
迫るようにルークが顔を寄せると、アッシュの眉間に深い皺が刻まれる。
怒らせたのだろうかと少し不安になりながらも、かまいはしないと開き直ったルークはそのままアッシュに抱きついた。
「お前をもう、一人で死なせたくなんてない……」
思い出すのは、あのエルドラントの閉ざされた部屋で最後に見たアッシュの姿。そして、その後に感じた引きちぎられてゆくような喪失感。
もう二度と、あんな思いはしたくない。自分を大切にしたいと思っているのなら、二度とあんな気持ちにさせないことを誓ってくれればそれで良いのに。
「……わかったから、離れろ」
子供のように抱きついてくるルークを引きはがすと、アッシュはうつむいたまま深いため息をついた。呆れられたのだろうかと思わず視線を使用人達にむけたルークは、彼らがなぜかとても微妙な顔で自分を見ていることに気がついて、小さく首を傾げた。
「……なんだよ」
「いーや、なんでも」
「……馬鹿馬鹿しい」
二人は両極端な返事を返すと、なぜかそろってドアの方へ向かう。
「俺たちはちょっと上の様子見てくるから、後はまかせたぞ」
「へ?後って……?」
事態をのみこめていないルークが疑問符を浮かべたような顔をしているのを他所に、ガイはアッシュの方へと顔を向けた。
「信じてるからな」
アッシュの肩が、その言葉に微かに反応する。
ドアの閉まる音とともにアッシュと二人きりで取り残されてしまったルークは、拍子抜けしたせいもあって気まずい思いを感じながらそろそろとアッシュの方を見た。
まるで何かに耐えているように拳を握りしめてうつむいているアッシュは、なにかをしきりにぶつぶつと呟いている。こころなしか耳の後ろがほんのりと赤くなっているようにも見えるが、その全身からは不穏なオーラがたちのぼっているようにも見える。
「お、俺もちょっと上に行ってくるから」
ルークの中の何かが、危険信号を発している。
即時撤退。
ルークはあまり深く考えずに、その本能に従おうとした。
しかしすでに時遅く、逃げようとしたところをがっしりと腕を掴まれて引き戻される。
「……ったく、始末におえねえ」
ため息に混じってこぼされた呟きは、ルークの耳には届かなかった。かわりにぎろりと睨みつけられて、捕食される草食動物のようにルークはぷるぷると小刻みに震えながら動きを止めた。
「そういや、さっきはよくも人のことを姫呼ばわりしてくれたな」
すうっと、悪辣な笑みがアッシュの唇に浮かぶ。
「てめえには、口の利き方ってものをもう一度たたき込んでやる必要がありそうだな」
「うええっ! つか、ここ船の上だし!」
「うるせえっ!」
ぎゅむっと両方の頬を掴まれ、思い切り両側に引っ張られる。
アッシュの手から逃げようとルークはじたじたと暴れるが、かなわない。
「ひたいっ! ぼ、暴力反対──っ!」
だが涙目で訴えるルークに、アッシュはさらに頬を引っ張る手に力を込めるだけだった。
その数刻後、アッシュなんて大嫌いだと子供のように泣き叫びながら、頬を真っ赤に腫らせたルークがアルビオールで帰路についたのは言うまでもない。
END
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ツンデレ撃沈。
うんざりとした声とともにルークに続いて降りてきたシンクは、降ってくると同時に横合いから斬りかかってきた相手を蹴り倒した。
「あんたの姿を見るなり飛び降りるなんて、ボクが風の譜術でクッションを作らなかったらどうなってたと思う?」
シンクありがとなー、などと呑気に手を振ったルークの頭にもう一度拳を食らわせてから、アッシュは空を仰いだ。
青い空を、見慣れたアルビオールの銀色の翼が低空飛行で掠めてゆく。
あそこから飛び降りたのかと、思わず軽い目眩を覚えるが、いまはそんな事よりも先に問い詰めなくてはならないことがあった。
「お前ら、なんでここに居る」
「ついでにいうなら、あっちには親馬鹿もいるからね」
さらに起き上がってきた相手にとどめとばかりにハイキックを食らわすと、シンクは不機嫌そうな顔でこちらをにらみ付けてくるアッシュに鼻で笑った。
「ご主人様の言いつけでね、ここまで案内しろって言うから連れてきただけだよ。ボクはしがない使用人だからね」
こんな時だけ使用人であることをことさら強調するシンクを、アッシュは鋭く睨み付けた。
「お前らには、バチカルで待機を命じたはずだ」
「おあいにく様だね。あいつの主人はルークだし、ボクの主人はあんたら二人だ。それにあんたが言いつけていったのは、あの犬っころのお守りだろ?」
シンクの指さす先では、喜々として犬っころ呼ばわりされたルークが剣を振るっている。たしかに、散歩の途中でリードを放されて喜び転げまわっている小犬に、見えなくもない。
「だったら、尚更なんでここに連れてきた」
敵の狙いをルークから自分に向けるために、わざわざ今回はルークをシンク達にまかせて単独行動を取ったのだ。だがこれでは、全く意味がないではないか。
「あんたが過保護なのはわかってるけど、のけ者にされていじけるお子様のお守りがどれだけ大変か、わかってる?」
「知るか! そんなこと」
誰よりも大切な相手を精一杯危険から遠ざけて、なにが悪い。ルークがどう思うかではなく、彼を守ることがアッシュの中では常に優先される。
「それより、いまはこいつらをどうにかするのが先決でしょ。……全く、綿密に計画を練るようで案外あんたは抜けてるんだからね」
「なっ……!」
「ほらほら、文句は後で言いな。ワンコが勝手に走っていってるよ」
顎でしめされた方向を見やれば、いつの間に突っ込んでいったのか、群がってくる相手に剣を振るうルークの後ろ姿が目に入る。
「あんたと違ってあいつは人間を相手にするのは苦手なんだから、さっさと援護に行ったら?」
そう言うなり詠唱をはじめたシンクに舌打ちを一つすると、アッシュはルークの後を追って乱戦の中に突っ込んでいった。
いくつか切り結んだ後、声を掛け合うこともなく自然に背中合わせになり、呼吸を合わせる。
「……考え無しに突っ込むな、馬鹿が!」
「うるせえな。もともとはアッシュが一人で突っ込んでいったんだろ」
向かってきた相手を剣ではね飛ばしながら、ふり返ることもせずにルークが不服そうに言う。
「これは俺の問題だ。てめえには関係ねえ」
「嘘つけ! ガイ達に聞いたぞ」
同時に同じ技を放ち、また背中あわせになる。その動きはまるで鏡に映ったように同じで、乱戦の中でそこだけ浮き上がったように均整の取れた美しさがある。
「とにかく、こいつらを片付けちまおうぜ。遅れンなよ」
「てめえ、誰に言ってやがる」
一瞬だけ背中が触れ、すぐに離れる。切り結び、相手と体を入れ替えたところに、シンクの風の譜術が投げ込まれる。
元が剣士のアッシュと違い、導師のレプリカでもあるシンクは譜術に長けている。無造作に放たれたように見える今の術も、敵だけをなぎ倒すように微調整されている。
おそらく、一騎当千とまではいかなくともそれなりの精鋭をそろえてきていたのだろうが、あの戦いをくぐり抜けてきた四人に勝てる者がそうそういるはずもない。
船尾からあがってきたガイと合流する頃にはあらかた決着はつき、襲撃犯のリーダーとおぼしき相手を捕らえると、ルークは満足げに剣を鞘におさめた。
後始末はアッシュが引き連れていた白光騎士団にまかせると、四人はそのままアッシュの船室へと移動した。
「何で来やがった……!」
部屋に入るなり、アッシュはルークの胸ぐらを掴むと低い声色で問いただした。
「アッシュこそ、なんで黙ってたんだよ!」
だが負けじと睨み返すルークにアッシュは舌打ちすると、突き放すようにして手を離した。
「お前らもだ。俺はこいつをバチカルに引き留めておくように言ったはずだ」
「正確にはルークをなにがなんでも守ること、としか言わなかったけどな」
腹立たしいほどに爽やかに言い切ったガイを横目で睨みつけると、アッシュは拗ねたように唇をとがらせて自分を睨んでいるルークに視線を戻した。
「だいたいテメエ、アルビオールから飛び降りるとはどういうことだ。目測誤っていたら、そのまま甲板にたたき付けられていてもおかしくなかったじゃねえか!」
「それは同感かな。まったく、無茶するよね」
とっさに自分が譜術を投げ込んでなければどうなっていたことか、と肩をすくめるシンクに、アッシュの目が半目になった。
「……てめえら、少しは黙っていろ」
だんだんと、アッシュの声のトーンが低く落ち着いた者になってゆく。怒りが深まりはじめている証拠だ。普段から声を荒げることの多いアッシュだが、本気で怒りはじめると声のトーンが下がってくるのだ。
「だいたい、俺はついて来るなと言ったはずだ。そんな簡単な言いつけも聞けねえのか、この屑がッ!」
「自分勝手に行動するおまえには言われたくねえよ。だいたい、俺らが助けに入ったから被害もほとんどなかったんじゃねえか!」
「てめえの手なんざ借りなくっても、なんとかなったんだよ。このボケっ!」
その言葉にぐっと表情を歪めたルークに、アッシュは内心しまったと舌打ちした。使用人二人からも、冷たい視線が向けられる。
「そりゃ俺はアッシュよりも色々劣ってるし、おまえには余計なお世話だったかも知れねえけど、でも、またただ守られているだけなんて冗談じゃねえよ」
大切に思って守ってくれているのだということは、分かっている。それが嫌なわけでもない。むしろ、気にかけてくれるのだと思うだけで、心が浮き立つ。
だけど、お姫様のように何も知らされずただくるまれるように守られるのは、やっぱり我慢がならない。
「俺だってちゃんとアッシュのこと守りたいし、役に立ちたい。そこのところ、忘れるんじゃねえよ」
迫るようにルークが顔を寄せると、アッシュの眉間に深い皺が刻まれる。
怒らせたのだろうかと少し不安になりながらも、かまいはしないと開き直ったルークはそのままアッシュに抱きついた。
「お前をもう、一人で死なせたくなんてない……」
思い出すのは、あのエルドラントの閉ざされた部屋で最後に見たアッシュの姿。そして、その後に感じた引きちぎられてゆくような喪失感。
もう二度と、あんな思いはしたくない。自分を大切にしたいと思っているのなら、二度とあんな気持ちにさせないことを誓ってくれればそれで良いのに。
「……わかったから、離れろ」
子供のように抱きついてくるルークを引きはがすと、アッシュはうつむいたまま深いため息をついた。呆れられたのだろうかと思わず視線を使用人達にむけたルークは、彼らがなぜかとても微妙な顔で自分を見ていることに気がついて、小さく首を傾げた。
「……なんだよ」
「いーや、なんでも」
「……馬鹿馬鹿しい」
二人は両極端な返事を返すと、なぜかそろってドアの方へ向かう。
「俺たちはちょっと上の様子見てくるから、後はまかせたぞ」
「へ?後って……?」
事態をのみこめていないルークが疑問符を浮かべたような顔をしているのを他所に、ガイはアッシュの方へと顔を向けた。
「信じてるからな」
アッシュの肩が、その言葉に微かに反応する。
ドアの閉まる音とともにアッシュと二人きりで取り残されてしまったルークは、拍子抜けしたせいもあって気まずい思いを感じながらそろそろとアッシュの方を見た。
まるで何かに耐えているように拳を握りしめてうつむいているアッシュは、なにかをしきりにぶつぶつと呟いている。こころなしか耳の後ろがほんのりと赤くなっているようにも見えるが、その全身からは不穏なオーラがたちのぼっているようにも見える。
「お、俺もちょっと上に行ってくるから」
ルークの中の何かが、危険信号を発している。
即時撤退。
ルークはあまり深く考えずに、その本能に従おうとした。
しかしすでに時遅く、逃げようとしたところをがっしりと腕を掴まれて引き戻される。
「……ったく、始末におえねえ」
ため息に混じってこぼされた呟きは、ルークの耳には届かなかった。かわりにぎろりと睨みつけられて、捕食される草食動物のようにルークはぷるぷると小刻みに震えながら動きを止めた。
「そういや、さっきはよくも人のことを姫呼ばわりしてくれたな」
すうっと、悪辣な笑みがアッシュの唇に浮かぶ。
「てめえには、口の利き方ってものをもう一度たたき込んでやる必要がありそうだな」
「うええっ! つか、ここ船の上だし!」
「うるせえっ!」
ぎゅむっと両方の頬を掴まれ、思い切り両側に引っ張られる。
アッシュの手から逃げようとルークはじたじたと暴れるが、かなわない。
「ひたいっ! ぼ、暴力反対──っ!」
だが涙目で訴えるルークに、アッシュはさらに頬を引っ張る手に力を込めるだけだった。
その数刻後、アッシュなんて大嫌いだと子供のように泣き叫びながら、頬を真っ赤に腫らせたルークがアルビオールで帰路についたのは言うまでもない。
END
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ツンデレ撃沈。