カノン・エピローグ





 優しく髪を撫でる指に猫のように瞳を細めながら、ルークは横たわったまま隣で上半身を起こしているアッシュの顔を見上げた。
「なんだ?」
「ん、気持ちいい」
 素直にそう告げれば、少し驚いたように翡翠の瞳が見開かれ、すぐにそこにやわらかな笑みが乗る。
 くしゃりと大きく頭を撫でられ、本当の猫にするように喉の下を擽られる。それに小さな笑い声をあげると、ルークはアッシュの髪に手をのばした。
「なあ、キスしろよ」
 髪を掴んでそうねだると、苦笑しながらも軽いキスが降りてくる。それを受け止めると、まだ近い位置に唇がある間に、ルークは口を開いた。
「好き」
 飾らない、たったひとつの言葉。だけど何よりも、今の自分の気持ちを素直に表せる一言。
 何度も口にした言葉だけれど、今は少し意味合いが違う。
「そうだな」
 声は優しいのに、欲しい言葉はくれない。そういうところもひっくるめて全部好きなのだけれど、今はちゃんとした言葉が欲しい。
 思ってくれていることがわかったから、我が儘になっているのかもしれないけれど、それくらいは望んでも良いはずだ。
 そんな不満が顔に出ていたのか、アッシュがこちらを見て苦い顔をする。
「……好きだ」
 こうなったら次はどういってやろうかと考えを巡らせはじめたルークの頭の上に、突然その言葉が降ってくる。
「え?」
 思わず弾かれたように顔をあげると、いつの間に近づけられていたのかそのまま唇をふさがれた。
 そのままじゃれるように何度も唇をかわし、手と手を合わせる。
 伝わってくる体温と、聞こえてくるたがいの音。
 綺麗なユニゾン。
 回り道をしながらも、ようやくたどり着いたこの場所が満たされているのならそれでいい。
これからも、同じ音を奏でながら、ならんだり追いかけたりしてひとつのハーモニーを作ってゆく。
 はじまった場所は違っても、同じ旋律を奏でる対の存在。
 そんな自分たちは、まるでカノンの調べのように同じ旋律を奏でながら互いを追いかけていたのかもしれない。
 それは、二人の命がつきるまで続くひとつの音楽になるだろう。
 そして契約によって結ばれた命は、同時に終演を迎えるのだ。かの調べが、同時に終わりを迎えるように。

 
 音楽は、はじまったばかりだった。



END

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ここまで長々とおつきあいありがとうございます。ようやくENDマークを付けることが出来ました。
何度も詰まりながらも、コメントやメールで温かい励ましや感想をいただけてなんとかここまでたどり着くことが出来ました。
読んでくださってありがとうございます。
この話を書き始めてからようやくアシュルク中心ですと名乗れるようになったわけですが、そう言う意味でも私にとってちょっと特別な話になりました。
趣味全開、乙女系ベタネタ満載の話でしたが、ここまで楽しんでいただけていたら幸いです。

さて、最後に来るまで語るまいと思っていたので、後書きが長くてすみませんorz。
この話は意外にもアッシュの方に共感というか、アッシュ側への感想が多くて意外でした。途中まではなるべく意地悪く見えると良いなと思って書いていたのですが、どう見えていたのかは気になるところです。
そしてルークは乙女過ぎてなかっただろうか、とか実はかなりドキドキしながら書いていました。(たぶんこれはもう無理orz)
最後に、楽しみですと言ってくださった方々に感謝を!