カノン・2
こみ上げてくる激しい感情をはき出すように泣いていたルークは、それをどうにか押さえこむと、ようやく顔をあげた。
それは決して長くも短くもない時間だったが、その間は時間がとまったかのようにその場にいた誰もが動かなかった。
ふと、戸口に立つアッシュと視線が合う。
しかしアッシュはそれを興味なさげに見かえすと、無言のまま身を翻した。
「アッシュ…?」
無意識に後を追おうとするのを、やんわりとジェイドの腕が受けとめるよう押しとどめる。
それでもまだ意識が彼の後を追いそうになるルークを止めたのは、部屋の中に入ってきた他の仲間たちの姿だった。
「ルークっ!」
短い叫びとともに風のような勢いで誰かが駆けよってきて、ぎゅっと強く抱きしめられる。
その腕の強さにかすかに顔をしかめながらも、鼻先に感じる懐かしい匂いに、押さえこんだはずの涙がまたこみあげてきそうになるのをなんとかこらえる。
物心もつかない頃から記憶に刻まれている、懐かしくて安心できる匂い。
それだけで、いま自分を抱きしめてくれているのが誰なのか、すぐにわかった。
不思議なことに、こうやって親代わりになって自分を育ててくれたガイに抱きしめられて、はじめてルークはようやく戻ってきたのだという実感を噛みしめていた。
「ちょっとガイ!いいかげんにルークのこと離しなさいよ!」
不意にガイの背後から、いらだちを隠さない甲高い声があがる。
それと同時に奇妙な声をあげてガイの腕がほどかれ、かわりにやわらかくてあたたかなものが胸のあたりに飛び込んできた。
「ア、アニスっ?」
「おかえりっ!ルーク」
相変わらずのツインテールの頭が、目のしたで揺れている。
飛び込まれた勢いでそのまま後ろに倒れ込みそうになったルークの背を、ベッドの傍らに座っているジェイドが支えてくれているのに気づき、ルークはおもわずアニスの頭とジェイドの顔を交互に見比べた。
そして、あげた視線の先に、さらに二人の女性の姿を認めて大きく目を見開く。
最後に見たときは二人ともまだ少女の面差しをどこかに残していたはずなのに、すっかり大人びた表情でこちらを見ている。
嬉しくてたまらないのに泣き出してしまいそうな、そんな顔で。
「おかえりなさいまし」
それでも精一杯の笑顔で、すこしのびた金色の髪を揺らしてナタリアが微笑む。
そして。
「…おかえりなさい。ルーク」
愛しむように青い瞳を細めて、ティアが笑った。
ひとしきり再会を喜んだあと、ルークはふと表情を硬くして戸口の方へ視線をむけた。
「アッシュが気になりまして?」
それに気づいたナタリアが、言葉をかけてくる。
「心配しなくても大丈夫ですわ。少し疲れたから部屋に戻ると言ってましたから」
だから気にすることはないとナタリアは言外に言ったつもりだったのだが、その言葉にルークは表情を強ばらせた。
「疲れたって、あいつ、体の方は…」
「すくなくとも、今のあなたよりは元気なようですね」
ジェイドはルークの言葉尻をとって続けると、指で眼鏡をおさえた。
「ですが、お二人とも、明日にはベルケンドで精密検査を受けてもらいます。状況が状況だっただけにね」
意味ありげなジェイドの言葉に、ルークはすこしためらってから呟いた。
「……何があったか、聞いてもいいか?」
ジェイドはじっとルークの目を見てから、ゆっくりと口を開いた。
「詳しいことは、私たちの方が聞きたいくらいなんですがね。本当は……。ただ、どうやら詳しいことを知っているのは、あなたではなくアッシュの方だけのようですね」
「アッシュが…?」
どうやら話が長引きそうだと判断したガイは、まだ顔色の悪いルークのために、枕を使って楽に体を起こしていられるようにしてやると、肩掛けを羽織らせてやった。
「本当は、ゆっくり休んでいただきたいのですが。その様子ではお子様は納得しないようですからね」
相変わらずの揶揄する口調でそう前置きをすると、ジェイドはゆっくりとタタル渓谷で起こったことを話しはじめた。
あれから二年の月日が過ぎて、すでにアッシュもルークも死んだものと思われていたこと。
昨日バチカルで「ルーク・フォン・ファブレ」の成人の儀が行われていたこと。
かつての仲間たちはそれに賛同できず、タタル渓谷に集まって彼らなりに二人のことを祝っていたこと。
ティアがユリアの大譜歌を歌い、そしてセレニアの花が咲き乱れる渓谷に一人の青年が現れたこと──。
「それが、アッシュだったんだな」
「そうとも言えますし、そうでないとも言えるのかもしれません」
ジェイドは曖昧な口調でそう言うと、困ったように笑った。
そして、それはどういうことかと問いたげな視線を向けたルークを、ジェイドは目顔で制して続けた。
「彼はすぐに、ティアに向かって大譜歌を歌えと言いました。時間がない、ともね…」
ジェイドたちにしても、何が起こったのかいまだにまったくわからないのだ。
はじめにルークだと思った彼はそう言うがはやいか、彼らの返答もまたずに腰に佩いた剣を抜いた。
その時になってはじめてジェイドたちは、彼の手に握られている剣がローレライの鍵だと言うことに気がついた。
彼は抜いた剣をそのまま両手でもって垂直に自分の前にかざすと、まるでなにかに祈りを捧げるように目を閉じた。
その姿が彼らに、エルドランドで最後に別れたときのルークの姿を思いおこさせた。そして、結果的にはそれが彼らの背を押したのだった。
ティアが静かに歌いはじめると同時に、彼は手にしていた剣を地面に突き立てた。
突き立てられた剣を中心にして光の帯がひろがり、複雑な光の譜陣が描かれる。
それはしだいに大譜歌の旋律にあわせて明滅しながら。光の流れを生んでいった。
光の洪水のようなすさまじいエネルギーの渦が高まる歌声に応えるかのように生まれ、白いセレニアの花がいくつも巻きあげられ、記憶粒子のようにキラキラと光を反射した。
薄く青みを帯びたその白い光は陣を中心にどんどん大きくふくれあがり、やがて巨大な光の渦となって夜の渓谷をつつみこんだ。
四方へと駆け抜けていった光の奔流がおさまったあと、その光の中心にぽつんと立つ一つの人影があった。
マロンペースト色の長い髪で、それがティアだということはすぐにわかった。
まるで石像のように固まったままその場に立ちつくす彼女のもとへ駆けつけた彼らは、彼女の足もとに広がる光景に同じように足をとめた。
地面に突き刺さったままのローレライの鍵。
その左右に、まるで鏡にうつった姿のように同じ姿勢で二人の青年が横たわっていた。
月に照らされた白い顔は、まったく同じで。
同じような白い服に、まるで胎児のように丸まったそっくりな姿形。
だが、髪の長さとその色合いが、彼らが鏡像ではないことを示している。
誰もが、一瞬言葉がなかった。
言葉を発したら、この奇跡が消えてしまうような気がして。
一番最初に我に返ったのは、ガイだった。
彼は迷わず最初にルークを抱きおこすと、そこにたしかに彼がいることを確かめようとするようにぎゅっとその体を抱きしめた。
どんな奇跡のもとに彼らが還ってきたのかなんて、いまはどうでもよかった。
彼らはいま、確かにここにいる。
それが、すべてだった。
「……その後、渓谷ですぐに目を覚ましたアッシュとともに、あなたを連れてここに戻ってきたんですよ。あいかわらず、寝起きが悪いですね」
そう言って笑うジェイドの顔は、二年の月日が経っているとは思えないほどあの時のままだった。
もっとも、まだルークにはあれから二年が経っているのだという実感が湧いてこない。
なにしろ、ローレライを解放して、それで自分の存在が大気に溶けたところがルークの最後の記憶なのだ。
そして次の瞬間に目がさめたらここにいたのだから、記憶が混乱するのもしかたがない。
ルークにしてみれば、みんなと別れたのはつい数刻前のことでしかない。
恐ろしいことに、自分の音素が乖離した瞬間の記憶まで残っているのだ。
だからまたみんなと会えたのはとても嬉しかったが、ルークが再会の喜びに多少の温度差を感じて戸惑うのも無理はないのかもしれない。
しかしこうやってあらためて仲間たちの顔を見ると、たしかにあの頃から時間が流れているのだと感じられた。
少女だった彼女たちは確実にあの頃よりも大人びていたし、いまも傍らでなにくれとなく気を配ってくれている親友の顔も、最後に見たものより精悍さを増している。そして…。
「……変わんねえな、ジェイド」
「おや、そうですか?」
「一番最初におまえの顔見たから、なんか二年経ってるっていわれてもイマイチぴんとこなかった」
「一応、褒め言葉として受け取っておきますよ」
あいかわらず食えない笑みを浮かべるジェイドにルークは引きつった笑みをかえしたが、すぐに真顔にかえった。
「何があったんだと思う?」
「さあ」
拍子抜けするくらいあっさりとそうかえされて、ルークは大きく瞬きをひとつした。
「仮説はいくつでも立てられますが、いまはあなた方の体を調べる方が先です。ざっと診させていただいた感じでは特に目立った異常はないようですが、きちんとした検査を受けてもらうまではなんともいえませんからね」
ですから、とジェイドはルークの瞳を覗きこむようにすこし顔を近づけた。
「今日のところは、大人しく休んでいなさい」
のぞき込んでくる有無を言わせない赤い瞳を、ルークは不服そうに見かえしていたが、まるで吸い込まれそうなその色に意識がしだいに薄れてゆくのを感じずにはいられなかった、
ジェイドの白い指がそっと瞼に触れ、目隠しをする。
ひんやりとしたその指の感覚に、さらに意識が遠のく。
次第に周囲の音が遠のいてゆく。
そして、気がついたときにはすでに、再び眠りのなかに落ちていったあとだった。
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まずはみんなとの再会から。ちなみに、この話のガイはルークの保護者です。ガイルクではないですよ〜。
それは決して長くも短くもない時間だったが、その間は時間がとまったかのようにその場にいた誰もが動かなかった。
ふと、戸口に立つアッシュと視線が合う。
しかしアッシュはそれを興味なさげに見かえすと、無言のまま身を翻した。
「アッシュ…?」
無意識に後を追おうとするのを、やんわりとジェイドの腕が受けとめるよう押しとどめる。
それでもまだ意識が彼の後を追いそうになるルークを止めたのは、部屋の中に入ってきた他の仲間たちの姿だった。
「ルークっ!」
短い叫びとともに風のような勢いで誰かが駆けよってきて、ぎゅっと強く抱きしめられる。
その腕の強さにかすかに顔をしかめながらも、鼻先に感じる懐かしい匂いに、押さえこんだはずの涙がまたこみあげてきそうになるのをなんとかこらえる。
物心もつかない頃から記憶に刻まれている、懐かしくて安心できる匂い。
それだけで、いま自分を抱きしめてくれているのが誰なのか、すぐにわかった。
不思議なことに、こうやって親代わりになって自分を育ててくれたガイに抱きしめられて、はじめてルークはようやく戻ってきたのだという実感を噛みしめていた。
「ちょっとガイ!いいかげんにルークのこと離しなさいよ!」
不意にガイの背後から、いらだちを隠さない甲高い声があがる。
それと同時に奇妙な声をあげてガイの腕がほどかれ、かわりにやわらかくてあたたかなものが胸のあたりに飛び込んできた。
「ア、アニスっ?」
「おかえりっ!ルーク」
相変わらずのツインテールの頭が、目のしたで揺れている。
飛び込まれた勢いでそのまま後ろに倒れ込みそうになったルークの背を、ベッドの傍らに座っているジェイドが支えてくれているのに気づき、ルークはおもわずアニスの頭とジェイドの顔を交互に見比べた。
そして、あげた視線の先に、さらに二人の女性の姿を認めて大きく目を見開く。
最後に見たときは二人ともまだ少女の面差しをどこかに残していたはずなのに、すっかり大人びた表情でこちらを見ている。
嬉しくてたまらないのに泣き出してしまいそうな、そんな顔で。
「おかえりなさいまし」
それでも精一杯の笑顔で、すこしのびた金色の髪を揺らしてナタリアが微笑む。
そして。
「…おかえりなさい。ルーク」
愛しむように青い瞳を細めて、ティアが笑った。
ひとしきり再会を喜んだあと、ルークはふと表情を硬くして戸口の方へ視線をむけた。
「アッシュが気になりまして?」
それに気づいたナタリアが、言葉をかけてくる。
「心配しなくても大丈夫ですわ。少し疲れたから部屋に戻ると言ってましたから」
だから気にすることはないとナタリアは言外に言ったつもりだったのだが、その言葉にルークは表情を強ばらせた。
「疲れたって、あいつ、体の方は…」
「すくなくとも、今のあなたよりは元気なようですね」
ジェイドはルークの言葉尻をとって続けると、指で眼鏡をおさえた。
「ですが、お二人とも、明日にはベルケンドで精密検査を受けてもらいます。状況が状況だっただけにね」
意味ありげなジェイドの言葉に、ルークはすこしためらってから呟いた。
「……何があったか、聞いてもいいか?」
ジェイドはじっとルークの目を見てから、ゆっくりと口を開いた。
「詳しいことは、私たちの方が聞きたいくらいなんですがね。本当は……。ただ、どうやら詳しいことを知っているのは、あなたではなくアッシュの方だけのようですね」
「アッシュが…?」
どうやら話が長引きそうだと判断したガイは、まだ顔色の悪いルークのために、枕を使って楽に体を起こしていられるようにしてやると、肩掛けを羽織らせてやった。
「本当は、ゆっくり休んでいただきたいのですが。その様子ではお子様は納得しないようですからね」
相変わらずの揶揄する口調でそう前置きをすると、ジェイドはゆっくりとタタル渓谷で起こったことを話しはじめた。
あれから二年の月日が過ぎて、すでにアッシュもルークも死んだものと思われていたこと。
昨日バチカルで「ルーク・フォン・ファブレ」の成人の儀が行われていたこと。
かつての仲間たちはそれに賛同できず、タタル渓谷に集まって彼らなりに二人のことを祝っていたこと。
ティアがユリアの大譜歌を歌い、そしてセレニアの花が咲き乱れる渓谷に一人の青年が現れたこと──。
「それが、アッシュだったんだな」
「そうとも言えますし、そうでないとも言えるのかもしれません」
ジェイドは曖昧な口調でそう言うと、困ったように笑った。
そして、それはどういうことかと問いたげな視線を向けたルークを、ジェイドは目顔で制して続けた。
「彼はすぐに、ティアに向かって大譜歌を歌えと言いました。時間がない、ともね…」
ジェイドたちにしても、何が起こったのかいまだにまったくわからないのだ。
はじめにルークだと思った彼はそう言うがはやいか、彼らの返答もまたずに腰に佩いた剣を抜いた。
その時になってはじめてジェイドたちは、彼の手に握られている剣がローレライの鍵だと言うことに気がついた。
彼は抜いた剣をそのまま両手でもって垂直に自分の前にかざすと、まるでなにかに祈りを捧げるように目を閉じた。
その姿が彼らに、エルドランドで最後に別れたときのルークの姿を思いおこさせた。そして、結果的にはそれが彼らの背を押したのだった。
ティアが静かに歌いはじめると同時に、彼は手にしていた剣を地面に突き立てた。
突き立てられた剣を中心にして光の帯がひろがり、複雑な光の譜陣が描かれる。
それはしだいに大譜歌の旋律にあわせて明滅しながら。光の流れを生んでいった。
光の洪水のようなすさまじいエネルギーの渦が高まる歌声に応えるかのように生まれ、白いセレニアの花がいくつも巻きあげられ、記憶粒子のようにキラキラと光を反射した。
薄く青みを帯びたその白い光は陣を中心にどんどん大きくふくれあがり、やがて巨大な光の渦となって夜の渓谷をつつみこんだ。
四方へと駆け抜けていった光の奔流がおさまったあと、その光の中心にぽつんと立つ一つの人影があった。
マロンペースト色の長い髪で、それがティアだということはすぐにわかった。
まるで石像のように固まったままその場に立ちつくす彼女のもとへ駆けつけた彼らは、彼女の足もとに広がる光景に同じように足をとめた。
地面に突き刺さったままのローレライの鍵。
その左右に、まるで鏡にうつった姿のように同じ姿勢で二人の青年が横たわっていた。
月に照らされた白い顔は、まったく同じで。
同じような白い服に、まるで胎児のように丸まったそっくりな姿形。
だが、髪の長さとその色合いが、彼らが鏡像ではないことを示している。
誰もが、一瞬言葉がなかった。
言葉を発したら、この奇跡が消えてしまうような気がして。
一番最初に我に返ったのは、ガイだった。
彼は迷わず最初にルークを抱きおこすと、そこにたしかに彼がいることを確かめようとするようにぎゅっとその体を抱きしめた。
どんな奇跡のもとに彼らが還ってきたのかなんて、いまはどうでもよかった。
彼らはいま、確かにここにいる。
それが、すべてだった。
「……その後、渓谷ですぐに目を覚ましたアッシュとともに、あなたを連れてここに戻ってきたんですよ。あいかわらず、寝起きが悪いですね」
そう言って笑うジェイドの顔は、二年の月日が経っているとは思えないほどあの時のままだった。
もっとも、まだルークにはあれから二年が経っているのだという実感が湧いてこない。
なにしろ、ローレライを解放して、それで自分の存在が大気に溶けたところがルークの最後の記憶なのだ。
そして次の瞬間に目がさめたらここにいたのだから、記憶が混乱するのもしかたがない。
ルークにしてみれば、みんなと別れたのはつい数刻前のことでしかない。
恐ろしいことに、自分の音素が乖離した瞬間の記憶まで残っているのだ。
だからまたみんなと会えたのはとても嬉しかったが、ルークが再会の喜びに多少の温度差を感じて戸惑うのも無理はないのかもしれない。
しかしこうやってあらためて仲間たちの顔を見ると、たしかにあの頃から時間が流れているのだと感じられた。
少女だった彼女たちは確実にあの頃よりも大人びていたし、いまも傍らでなにくれとなく気を配ってくれている親友の顔も、最後に見たものより精悍さを増している。そして…。
「……変わんねえな、ジェイド」
「おや、そうですか?」
「一番最初におまえの顔見たから、なんか二年経ってるっていわれてもイマイチぴんとこなかった」
「一応、褒め言葉として受け取っておきますよ」
あいかわらず食えない笑みを浮かべるジェイドにルークは引きつった笑みをかえしたが、すぐに真顔にかえった。
「何があったんだと思う?」
「さあ」
拍子抜けするくらいあっさりとそうかえされて、ルークは大きく瞬きをひとつした。
「仮説はいくつでも立てられますが、いまはあなた方の体を調べる方が先です。ざっと診させていただいた感じでは特に目立った異常はないようですが、きちんとした検査を受けてもらうまではなんともいえませんからね」
ですから、とジェイドはルークの瞳を覗きこむようにすこし顔を近づけた。
「今日のところは、大人しく休んでいなさい」
のぞき込んでくる有無を言わせない赤い瞳を、ルークは不服そうに見かえしていたが、まるで吸い込まれそうなその色に意識がしだいに薄れてゆくのを感じずにはいられなかった、
ジェイドの白い指がそっと瞼に触れ、目隠しをする。
ひんやりとしたその指の感覚に、さらに意識が遠のく。
次第に周囲の音が遠のいてゆく。
そして、気がついたときにはすでに、再び眠りのなかに落ちていったあとだった。
BACK← →NEXT(07/02/10)
まずはみんなとの再会から。ちなみに、この話のガイはルークの保護者です。ガイルクではないですよ〜。