Little flower waltz・3




「えっ? えっ?」
「……ったく何やってんのさ、あんたらしくもない」

小さな舌打ちと共に呆れたような声がして慌てて先を行く相手を見ると、ルークの手を引っ張って走っているのは同じくらいの少年のようだった。

「……しつこいな」

状況について行けずに目を白黒させているルークの目の前で少年はそう呟くと、急にくるりと後ろをふり返り、ルークのことを横に突き飛ばした。

「うおっ!」
「エナジーブラスト!」

突然のことにべしゃりと顔から突っ込んだルークの頭の上で、鋭い少年の詠唱が響く。
爆風が頭の上を通り過ぎ、後ろの方で潰れたような悲鳴が上がる。

「ほら、何時までもそんなところに寝てるんじゃないよ!」

鋭い少年の声にルークは慌てて跳ね起きると、爆煙に紛れて見え隠れする少年の後をあわてて追いかけていった。



少年が足をとめたのは、あと少しでルークの息が完全に切れる寸前のことだった。
ルークはぺたりとその場に座りこむと、ぜいぜいと必死に息をしながら自分を助けてくれた少年をあらためて見上げた。
ルークよりも少し小柄だろうか。綺麗な緑色の髪に、ルークと同じ大きな猫耳がついている。
同族だ、と思った途端ほっと安心感が胸に広がる。だが……。

「ちょっとあんた、何やってんのさ!」

ぐいっと胸ぐらを掴まれた立ち上がらされ、ルークはきょとんと目を丸くした。

「ボケボケしてんじゃないよ、まったく…っ! 何の騒ぎかと思って見てみれば……、ん?」

頭ごなしに怒鳴られてぽかんと口を開けているルークの顔をまじまじと覗き込みながら、少年は怪訝そうに眉をひそめた。

「アッシュ、じゃない……?」
「……アッシュ?」

聞き覚えのない名前に首を傾げたルークに、少年はじろじろと遠慮のない視線で頭の天辺からつま先までルークを見回して。

「……そっくりだけど。もうちょっとあいつの方が賢そうな顔しているし」
「悪かったな、馬鹿そうな顔で」

むっとして言い返すと、少年がフフンと鼻で笑う。

「自覚あるんだ」
「う、うるさいっ!」

ぶわっと尻尾を膨らませたルークを面白そうに見つめながら、少年はぱたりと尻尾でかるく地面を叩いた。

「それで、なんか忘れていることない?」
「へ?」
「助けてもらって、礼の一つも言えないのあんた」

呆れた声をあげた少年に、ルークは内心ふて腐れながらもぼそぼそと小さな声で礼をのべる。
なんだか素直に礼を言うのは癪だが、助けてもらったのは事実だ。

「それで、名前は?」
「人に名前を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀じゃねーのか」
「いちいちうるさいね。僕はシンク。見ての通りあんたとは同族だよ」
「ルークだ……」

文句を言う割りにはあっさりと名前を口にした少年──シンクにまだ複雑な気持ちは感じながらも、ルークも名乗った。

「あんた、どこの飼い猫? その様子じゃ街に出たのも初めてってとこだろ?」
「う、うっせえな! ……そうだけど」

へにょっと尻尾を垂らしたルークに、シンクはやれやれと肩をすくめる。

「本当だったらここで見捨ててくんだけど、どうやらそう言うわけにもいかないみたいだしね」
「へっ?」

意味ありげにこちらを見るシンクにルークは目をパチパチさせると、小さく首を傾げた。

「いいから着いてきな。それとも、このまま僕がここで居なくなってもあんたがちゃんと家に帰れるってんならいいけど?」

ハッと気付いて慌てて辺りを見回すが、少年についてめちゃくちゃに走ったため、ここがどこなのかさっきの市場までどう戻ればいいのかも見当がつかない。

「で、ついて来るの? こないの?」

すでに数歩先を歩いていたシンクは、立ち止まると少し苛立ったような声でルークを促す。
その声に弾かれたようにルークはちいさく飛び上がると、シンクの後を追うようにして急いで歩きはじめた。






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