Little flower waltz・4
「なあ、どこに行くんだ?」
歩き出してしばらくして、ルークは前を行くシンクに訊ねてみた。しかし、返事どころかシンクはルークの方をふり返りもしない。
そんな彼の態度にややムッとしつつも、ルークは気を取り直して今度は別のことを訊ねてみた。
「なあなあ。もしかしてさっき俺のこと、誰かと間違ったのか?」
「うるさいなあ」
答えの代わりに返ってきたシンクのうんざりした声にムカッとするが、なんとか押さえこむ。
「だってさっき、違う名前で俺のこと呼んだだろ」
「その辺りのことも全部ついて来れば分かるから、少し黙っていてくれない?」
ハアとわざとらしく大きく息をつきながら、くるりとシンクが後ろをふり返った。
「まったく、似ているのは顔だけだね……」
「顔?」
「いいから黙ってついてきな。うるさいとおいて行くよ」
もうこれ以上何も言う気はないとばかりに踵を返したシンクの後を、ルークはなんとなく納得できないまま追いかける。
でもこれ以上彼を怒らせたら、間違いなくおいて行かれるだろう。
だから納得がいかないままも、ルークは渋々とシンクの後をついて行った。
「おかえりなさい、早かったですね」
おっとりとした声とともに二人を迎えてくれた少年の顔を見て、ルークは目を丸くしながら少年とシンクの顔を見比べた。
表情や雰囲気に違いはあれど、二人は一目でそっくりだと分かる顔立ちをしている。
そんなルークの様子をシンクは面倒くさそうな顔で見ているだけだったが、もう一人の少年の方は目があうとニコリと感じよく笑いかけてきた。
「アッシュ、ではありませんね。初めまして」
「あ、え、おっ、おうっ!」
ドギマギしながら慌てて答えたルークにもう一度笑いかけてから、少年はイオンと申しますとおっとりとした口調で名乗った。
ルークが連れてこられたのは、商業区のはずれにある大きな建物の裏手にある小さな家だった。
そこは実はローレライ教団のバチカル教会の裏なのだが、この街に来てから一度も屋敷を出たことのないルークが知るはずもない。
「俺は、ルーク。ルーク・フォン・ファブレ」
「ルーク。いい名前ですね」
その一言で、ルークはイオンと名乗った少年に好意を持った。
ルークの耳がぴこぴこと嬉しそうに動いているのを見て、隣にいるシンクは呆れ半分の目を向け、イオンはさらに笑みを深めた。
「それで、どうしてルークはここに?」
「街で絡まれてたんだよ。アッシュだと思って加勢に入ったら、こいつだったってわけ」
「なるほど」
イオンは頷きながら、シンクの物言いに不満そうな顔しているルークにそっと笑いをかみ殺す。
「……なあ、お前らがさっきから言っているアッシュって誰だ?」
ここでもまた出てきた『アッシュ』と言う名前に、ルークは焦れた声を出す。
「アッシュは、僕らの仲間ですよ。……ああ、ちょうど帰ってきたようですね」
ピンと耳を立てたイオンにつられて振り向いたルークは、ちょうどこちらにやってくる相手の顔を真っ正面から見るかたちになってそのまま硬直した。
似ているなんてもんじゃない、自分がもう一人向こう側から歩いてきたような、そんな違和感がざわりと背中を駆け抜ける。
ルークが気がついたと同時に、むこうもルークに気がついたらしく大きく目が瞠られる。が、すぐにその目はすっと剣呑な形に眇められた。
「なんでてめえがここにいるっ!」
いきなり怒鳴りつけられて、ルークはとっさに反応できなかった。
驚いているせいもあったし、なによりもやっぱりあまりにもその『アッシュ』と呼ばれている彼が、自分にそっくりだったせいもある。
しかしルークもすぐに我に返ると、今にも殴りかからんばかりの勢いでこちらに向かってくるアッシュに対して身構えた。
「なんだよお前っ!」
「うるせえっ! 俺はなんでてめえがここにいるのかを訊いてんだ。さっさと言え!」
「てめえにはかんけーねえだろっ!」
「口答えするなっ!」
殴られる、と咄嗟に思って身構えていると、なぜかその前にするりと小さな影がすべりこんでくる。なにが、と思うよりも前にそのすべりこんできた影はやすやすとアッシュの攻撃をはじき返すと、おっとりとした笑みを浮かべた。
「アッシュ、いけませんね。いきなり殴りかかるなんて」
いかにもおっとりとしてとろそうに見えたイオンの思いがけない行動に、ルークは思わずまじまじと自分よりも少し小柄な相手を見つめてしまう。それにイオンはにこりと笑い返すと、さてとアッシュの方へ向き直った。
「とにかく、お話をしましょうか」
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歩き出してしばらくして、ルークは前を行くシンクに訊ねてみた。しかし、返事どころかシンクはルークの方をふり返りもしない。
そんな彼の態度にややムッとしつつも、ルークは気を取り直して今度は別のことを訊ねてみた。
「なあなあ。もしかしてさっき俺のこと、誰かと間違ったのか?」
「うるさいなあ」
答えの代わりに返ってきたシンクのうんざりした声にムカッとするが、なんとか押さえこむ。
「だってさっき、違う名前で俺のこと呼んだだろ」
「その辺りのことも全部ついて来れば分かるから、少し黙っていてくれない?」
ハアとわざとらしく大きく息をつきながら、くるりとシンクが後ろをふり返った。
「まったく、似ているのは顔だけだね……」
「顔?」
「いいから黙ってついてきな。うるさいとおいて行くよ」
もうこれ以上何も言う気はないとばかりに踵を返したシンクの後を、ルークはなんとなく納得できないまま追いかける。
でもこれ以上彼を怒らせたら、間違いなくおいて行かれるだろう。
だから納得がいかないままも、ルークは渋々とシンクの後をついて行った。
「おかえりなさい、早かったですね」
おっとりとした声とともに二人を迎えてくれた少年の顔を見て、ルークは目を丸くしながら少年とシンクの顔を見比べた。
表情や雰囲気に違いはあれど、二人は一目でそっくりだと分かる顔立ちをしている。
そんなルークの様子をシンクは面倒くさそうな顔で見ているだけだったが、もう一人の少年の方は目があうとニコリと感じよく笑いかけてきた。
「アッシュ、ではありませんね。初めまして」
「あ、え、おっ、おうっ!」
ドギマギしながら慌てて答えたルークにもう一度笑いかけてから、少年はイオンと申しますとおっとりとした口調で名乗った。
ルークが連れてこられたのは、商業区のはずれにある大きな建物の裏手にある小さな家だった。
そこは実はローレライ教団のバチカル教会の裏なのだが、この街に来てから一度も屋敷を出たことのないルークが知るはずもない。
「俺は、ルーク。ルーク・フォン・ファブレ」
「ルーク。いい名前ですね」
その一言で、ルークはイオンと名乗った少年に好意を持った。
ルークの耳がぴこぴこと嬉しそうに動いているのを見て、隣にいるシンクは呆れ半分の目を向け、イオンはさらに笑みを深めた。
「それで、どうしてルークはここに?」
「街で絡まれてたんだよ。アッシュだと思って加勢に入ったら、こいつだったってわけ」
「なるほど」
イオンは頷きながら、シンクの物言いに不満そうな顔しているルークにそっと笑いをかみ殺す。
「……なあ、お前らがさっきから言っているアッシュって誰だ?」
ここでもまた出てきた『アッシュ』と言う名前に、ルークは焦れた声を出す。
「アッシュは、僕らの仲間ですよ。……ああ、ちょうど帰ってきたようですね」
ピンと耳を立てたイオンにつられて振り向いたルークは、ちょうどこちらにやってくる相手の顔を真っ正面から見るかたちになってそのまま硬直した。
似ているなんてもんじゃない、自分がもう一人向こう側から歩いてきたような、そんな違和感がざわりと背中を駆け抜ける。
ルークが気がついたと同時に、むこうもルークに気がついたらしく大きく目が瞠られる。が、すぐにその目はすっと剣呑な形に眇められた。
「なんでてめえがここにいるっ!」
いきなり怒鳴りつけられて、ルークはとっさに反応できなかった。
驚いているせいもあったし、なによりもやっぱりあまりにもその『アッシュ』と呼ばれている彼が、自分にそっくりだったせいもある。
しかしルークもすぐに我に返ると、今にも殴りかからんばかりの勢いでこちらに向かってくるアッシュに対して身構えた。
「なんだよお前っ!」
「うるせえっ! 俺はなんでてめえがここにいるのかを訊いてんだ。さっさと言え!」
「てめえにはかんけーねえだろっ!」
「口答えするなっ!」
殴られる、と咄嗟に思って身構えていると、なぜかその前にするりと小さな影がすべりこんでくる。なにが、と思うよりも前にそのすべりこんできた影はやすやすとアッシュの攻撃をはじき返すと、おっとりとした笑みを浮かべた。
「アッシュ、いけませんね。いきなり殴りかかるなんて」
いかにもおっとりとしてとろそうに見えたイオンの思いがけない行動に、ルークは思わずまじまじと自分よりも少し小柄な相手を見つめてしまう。それにイオンはにこりと笑い返すと、さてとアッシュの方へ向き直った。
「とにかく、お話をしましょうか」
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